覚え書:「今週の本棚・新刊 『戦時下の日本仏教と南方地域』=大澤広嗣・著」、『毎日新聞』2016年1月10日(日)付。

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今週の本棚・新刊
『戦時下の日本仏教と南方地域』=大澤広嗣・著

毎日新聞2016年1月10日 東京朝刊
 
 (法藏館・5184円)

 戦時中の東南アジアで、日本の仏教者が占領地支配にどう関与したかをまとめた。従来は、朝鮮半島や中国大陸での各宗派の布教史などの研究が目立ったが、本書の対象地域では、僧侶らは宗派を超えて動員・派遣され、主に現地の宗教調査や僧侶、一般人への文化工作、いわばソフト・パワー的な活動に従事した。

 具体的な人物の動きに注目した章が多い。西欧留学経験のある僧侶もおり、仏教者、研究者としての良心をぎりぎりで守りつつ活動したように読める例が目立つ。戦時中の体験から、戦後はベトナム反戦で活躍した人もいる。他方、平安時代にインドへ向かう途中で死んだ真如親王は、南方進出熱の高まりと共に顕彰の動きが拡大した。シンガポールに大仏のような像が計画され、「大東亜各住民」の「宗教を超越し」た聖地を目指した。南方に派遣する僧侶を教育した萩山道場は、まるで仏教版の陸軍中野学校。元皇道派が理事におり、大川周明らとの関係もあった。講義担当者には毎日新聞論説委員、森正蔵の名前も。新聞など他業界の南方進出との違い、さらに今も含めた宗教の「社会貢献」のあり方まで考えさせられた好著だ。(生)
    −−「今週の本棚・新刊 『戦時下の日本仏教と南方地域』=大澤広嗣・著」、『毎日新聞』2016年1月10日(日)付。

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戦時下の日本仏教と南方地域
大澤 広嗣
法藏館
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