覚え書:「書評:生きた、臥た、書いた 淵上毛錢の詩と生涯 前山光則 著」、『東京新聞』2016年1月10日(日)付。

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生きた、臥た、書いた 淵上毛錢の詩と生涯 前山光則 著

2016年1月10日
 
◆死を眼前にユーモア
[評者]正津勉=詩人
 人は、病む。誰もが病むように造られている。いまひっそりと患われている方もおいでだろう。そんな人にぜひ一読勧めたい詩がある。淵上毛錢(ふちがみもうせん)(一九一五〜五〇年)、熊本県水俣市生まれ。二十歳のとき結核性股関節炎を発症。以来、寝たきりの身となる。毛錢はやまない激しい苦しみに呻(うめ)きながら、ひたすら詩を書くことで堪えてきた。やがてくる死をまえに、ペーソスちょっぴり、ユーモアたっぷり、ぼそっと呟(つぶや)くように。
 「ぼくが/死んでからでも/十二時がきたら 十二/鳴るのかい/苦労するなあ/まあいいや/しつかり鳴つて/おくれ」(柱時計)。「じつは/大きな声では云(い)へないが/過去の長さと/未来の長さとは/同じなんだ/死んでごらん/よくわかる。」(死算)
 こんなふうに死に向きあえたらどうだろう、ほっこりと気も楽になるのでは。生誕百年に因(ちな)んだ決定版評伝。同県八代市在住の著者は、ひとかたならず毛錢への思い篤(あつ)く、最適の評伝作家だ。山之口貘(ばく)との友誼(ゆうぎ)、戦時下の結婚、九州や水俣の文学風土…。小動物や人々の生活の小さな風景を毛錢は好んで描いた。書名は毛錢墓碑銘、「病床詩雷 淵上毛錢之墓」、「生きた、臥(ね)た、書いた」から。
 ここに初めて明らかになる己を真摯(しんし)に見つめる特筆すべきその詩と人となり。ほんとじつに深くて広いものがある。
弦書房・2160円)
 <まえやま・みつのり> 1947年生まれ。文筆家。著書『山頭火を読む』など。
◆もう1冊 
 『淵上毛錢詩集(増補新装版)』(前山光則編・石風社)。病に臥(ふ)しながら書き続けた夭折(ようせつ)詩人の抒情(じょじょう)詩選集。
    −−「書評:生きた、臥た、書いた 淵上毛錢の詩と生涯 前山光則 著」、『東京新聞』2016年1月10日(日)付。

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生きた、臥た、書いた《淵上毛錢の詩と生涯》
前山 光則
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