覚え書:「書評:私たちの声を議会へ 三浦まり 著」、『東京新聞』2016年01月10日(日)付。

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私たちの声を議会へ 三浦まり 著

2016年1月10日

◆政治参加の新たな道示す
[評者]五野井郁夫=高千穂大准教授
 どうすればわれわれの声を議会に届けることができるのか。この問いに真正面から取り組み、われわれ自身で代表制民主主義を機能不全から立て直すすべを示しているのが本書である。
 なぜ、政治家は人々の声に耳を傾けなくなったのか。その理由として本書は、「競争」と「参加」、「多様性」の不足や弱体化を挙げている。まず必要なのは「競争」の活性化、すなわち政党間競争の実質化だ。これにより定期的な政権交代を可能にする素地が出来上がる。さらに参政権の行使はもちろん、中間団体での活動や直接行動への「参加」、議員や政治参加する人々の「多様性」を広げることも重要だ。
 ところで現在の日本では、どの程度多様性が確保されているのだろうか。政治での男女の性別不均衡は、百九十カ国中なんと百五十五位。恥ずべき順位だ。二〇一五年時点の議会下院における女性議員比率も、世界平均は22%だが、日本では10%にも満たない。この多様性のなさを改善すべく、女性議員比率のクオータ(割当制)やパリテ(男女平等数規定)などの積極的改善策を設け、代表者の側も多様になるべきだとの主張には説得力がある。
 本書のユニークさは、政治参加を選挙による代表制と、デモ等の直接行動の二元論のみで捉えない点だ。国家と個人の間にある中間団体たる「結社」を通じた各人の関係性の稠密(ちゅうみつ)化に政治の刷新可能性を見出している。男性優位社会の不当さを変えるべく声をあげている「怒れる女子会」や、安保関連法案に反対するさまざまな結社による政治活動は、われわれと議会の間に新たな回路を開き、代表制民主主義を再生させる役割を担いつつある。これら結社活動を通じての政治参加は政党よりもアクセスしやすいだけでなく、われわれが今すぐにでもできることだ。
 二〇一六年は国政選挙の年である。われわれの声を政治に反映させるための第一歩として、今年はまずこの一冊からはじめたい。
(岩波現代全書・2160円)
 <みうら・まり> 1967年生まれ。上智大教授。共編著『ジェンダー・クオータ』。
◆もう1冊 
 待鳥聡史著『代議制民主主義』(中公新書)。世界各国で機能不全に陥り、批判にさらされている代議制民主主義のあり方を問い直す。
    −−「書評:私たちの声を議会へ 三浦まり 著」、『東京新聞』2016年01月10日(日)付。

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