覚え書:「社説:ヘイト条例 大阪から議論加速を」、『朝日新聞』2016年01月18日(月)付。

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社説:ヘイト条例 大阪から議論加速を
2016年1月18日
 ヘイトスピーチ(憎悪表現)の抑止を目指す全国初の条例が大阪市で成立した。

 約7万人の在日韓国・朝鮮人が暮らす大都市が「ヘイトスピーチを許さない」との意思を明確に示した意義は大きい。

 条例は、規制対象のヘイトスピーチについて、「特定の人種や民族に属する個人や集団を社会から排除することや、憎悪、差別意識をあおる目的で行われる表現活動」と定義した。

 法律専門家らでつくる審査会が表現内容を調査し、ヘイトスピーチだと判断すれば、市長が表現者の名称を公表する。

 市議会での議論の結果、審査会の中立性を保つため、委員の選任は議会の同意が必要とされ、より厳格になった。

 当初案にあった被害者の訴訟費用の支援は削除されたものの、ヘイトスピーチを直接規制する法律がない現状で、自治体としてできる最大限の内容になったといえるのではないか。

 表現の自由との兼ね合いから、努めて抑制的に運用されるべきだが、条例があること自体がヘイトスピーチの抑止につながれば望ましい。

 被害は今も各地で続く。「私たちはどう対処すべきなのか」という社会全体の議論を加速させる効果も期待したい。

 大阪で一昨年、議論の口火を切ったのは橋下徹前市長だった。野党が過半数を握る市議会でも「ヘイトスピーチへの対処は必要」という認識が深まり、条例成立に至った。

 ここ2年で、多くの地方議会で対策強化を求める意見書が採択された。朝鮮学校への悪質な街宣があった京都では、条例制定を求める運動が起きている。

 ヘイトスピーチに脅かされているのは、同じ地域社会に暮らす人々である。人権を守るため、それぞれの地域でできることをもっと考えていきたい。

 なにより行動を求められるのは、政府と国会だ。

 政府は「現行法の適切な運用と啓発に努める」と繰り返してきた。だが被害の訴えが相次いでいるのに、法務省が人権侵害として改善を勧告したのは先月が初めて。国会でも昨年5月、民主、社民両党などがヘイトスピーチを禁じる法案を出したが、自民党に慎重論が根強く、審議は停滞している。

 あまりに対応が遅い。「ヘイトスピーチを許さない」という意思を共有し、国として何をすべきか、議論を詰めるべきだ。

 法務省は昨年、実態調査をようやく始めた。この問題への国民の関心を高めるためにも、状況把握を急いでもらいたい。
    −−「社説:ヘイト条例 大阪から議論加速を」、『朝日新聞』2016年01月18日(月)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12164464.html


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