覚え書:「今週の本棚・新刊・『大阪空襲訴訟は何を残したのか』=矢野宏、大前治・著」、『毎日新聞』2016年1月17日(日)付。
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今週の本棚・新刊
『大阪空襲訴訟は何を残したのか』=矢野宏、大前治・著
毎日新聞2016年1月17日 東京朝刊
(せせらぎ出版・700円)
日本の「戦後補償」、正確には「戦後未補償」問題を取材していると、国家が国民に対していかに無慈悲か、ということを痛感する。たとえば第二次世界大戦で、空襲に遭った民間人に対してまともな補償をしてこなかった。一方、元軍人・軍属には「国家と雇用関係にあった」という理由でなされている。
「不公平だ」と当然の憤りを抱えた民間人は長年、法廷闘争を繰り広げてきた。本書は2008−14年、空襲被害者たちが闘った集団訴訟を振り返っている。
司法は民間被害者の救済を、戦争被害受忍論つまり「戦争で国民全体が被害を受けたので、がまんしなければならない」という理屈で退け、軍人・軍属との差別は違法ではない、としてきた。大阪空襲訴訟も最高裁で敗訴が確定。しかし本書から、訴訟が甚大な被害を司法に認定させたこと、さらに司法の受忍論解釈に変化が生じていることが分かる。
今も受忍論の壁は厚く高い。しかしこの「法理」が最後までまかり通れば、大規模な人災、たとえば原発事故にも悪用されるだろう。副題の「伝えたい、次世代に」という言葉の意味をかみしめたい。(栗)
−−「今週の本棚・新刊・『大阪空襲訴訟は何を残したのか』=矢野宏、大前治・著」、『毎日新聞』2016年1月17日(日)付。
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