覚え書:「特集ワイド「18歳選挙権」で文科省が新通知 高校生だって、政治に関わりたい!」、『毎日新聞』2016年1月21日(水)付夕刊。

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特集ワイド
「18歳選挙権」で文科省が新通知 高校生だって、政治に関わりたい!

毎日新聞2016年1月21日 東京夕刊

「18歳選挙権」が実現し、夏の参院選ではいよいよ、高校生が1票を投じる。これを受け、高校生の政治活動を禁じてきた文部科学省は昨年10月、新たな通知を出し、学校外に限って政治活動を認めた。半世紀ぶりの「政治活動」一部解禁は、ホントに高校生が政治に関心を寄せるきっかけとなるだろうか?【小国綾子】

 「えーっ! これまで高校生の政治活動は禁止されてたの!?」。4年制の通信高に通う斎藤優里彩(ゆりあ)さん(19)と妹で中学3年の乃愛(のあ)さん(15)は目を丸くした。アイドルグループ「制服向上委員会」のメンバーとして、全国の集会やデモに呼ばれては原発や安全保障関連法に反対する歌やダンスを披露している。デモに参加したこともある。

 高校生の政治活動を禁じた文部省(当時)の1969年の通知は、大学紛争時に高校でも学校封鎖などが起きたために出されたが、その後は若者にむしろ政治への無関心が広まり、現実に合わなくなっていた。

 文科省は昨年「18歳選挙権」導入を前に、69年通知を廃止し、新たな通知を出した。校内の活動は引き続き禁止。さらに、校外の活動は本人の判断にゆだねるとしたものの、「違法なもの、暴力的なもの」は禁止し、「学業や生活などに支障があると認められる場合」などは制限や禁止することも必要とした。

 毎日新聞は昨年12月中旬、47都道府県と20政令市の各教委に「高校生が校外での政治活動(集会やデモなど)や選挙運動に参加する場合、事前もしくは事後に参加届を提出させる考えがあるか」と聞いたところ、複数の自治体が「検討中」と答えた。

 優里彩さんはこの「届け出」検討のニュースにショックを受けている。「まるで悪いことをしているみたい。『投票しろ。でも自分の意見は持つな』という矛盾したメッセージに思えます。投票するためには自分なりの意見が必要。政治に主体的に関わらないと意見など持てません」

 2人はこれまでも政治的なメッセージを含む歌やスピーチをするたび批判を受けてきた。主義主張への反対以上に多いのが「子供のくせに」という批判だ。「中高生は政治に意見を持ち、発言してはいけないの? 未来を作るのは私たちです。平和を願って発言するのに大人も子供もないと思う。皆が意見を言える社会のためにも活動は続けたい」と乃愛さんは言う。

 新通知では「政治的活動」を、「特定の政治上の主義もしくは施策」や「特定の政党や政治的団体」などを支持または反対することを目的に行われる行為、と定義している。

 18歳選挙権の実現を目指してきた高校生団体「ティーンズライツムーブメント(TRM)」代表で高校3年の百瀬蒼海(あおい)さん(18)は自分たちの活動が「政治活動」と思っていないが、届け出には反対だ。「思想に介入され、ブラックリストに載せられるような危機感がある。活動をちゅうちょしたり、親に止められたりする人も出かねず、若者の政治参加を妨げかねない」と反対する。

 元文部官僚で京都造形芸術大教授の寺脇研さんは「最近は政治活動も多様化し、線引きが難しい。大阪のように教育委員会の独立性が危ぶまれる今、『政治活動』が拡大解釈される恐れがある」と警鐘を鳴らすのである。

無関心の方が深刻なのに

 諸外国ではどうか。

 子供や若者の社会参画の枠組みづくりを目指す民間非営利団体「Rights」の代表理事で、ドイツ事情に詳しい中央大商学部特任准教授、高橋亮平さんは「ドイツでは校内外に関わらず政治活動は原則自由。大学生が高校を訪問し、デモへの参加や署名活動、ディベートの進め方など社会参画の具体的な方法を教えていた」と例を挙げ、「18歳になるまで政治的に『温室育ち』にしておいて、いきなり選挙権だけ与えて終わりで良いのでしょうか。むしろ高校生のうちに生徒会活動をはじめ校内の政治活動を自由にさせながら、実践的な形で政治リテラシーを育てるべきではないのでしょうか」と問題提起する。

 若者の投票率が高いことで知られるスウェーデンストックホルム大学大学院で若者の政治参加などを研究中の大学院生、両角達平さん(27)は「民主主義を学び、能動的な市民を育てるのが学校の目的だから、学内の政治活動を禁じるなんてスウェーデンではありえません。選挙前には全政党の政治家や政党青年部のメンバーを学校に順番に呼び、生徒がディベートするのも当たり前。政治性を一切排除するのではなく、全部の政党を呼ぶことで中立性を確保するのです」と説明する。

 同国では生徒会活動も活発。「生徒会を束ねる全国組織は、高校で模擬投票を実施するなど政治と高校生の橋渡し役。この運営費の約9割は国の補助金で、フルタイムのスタッフを45人も雇っています」

 その結果か、同国の18−29歳の投票率は約80%。日本の20代の倍以上だ。また若者の社会参加も目立つ。各国の社会学者らが協力して実施している「世界価値観調査」によると、29歳以下の若者で「平和的なデモに参加したことがある」人はスウェーデンでは18・8%、日本では0・7%。逆に「決して参加することはない」人はそれぞれ22・9%、49・3%と差がある。

 両角さんは「日本は若者も大人も政治アレルギーが強過ぎる。高校生の政治活動を長年禁じてきた社会で育った教師や親に育てられた若者が、政治に無関心なのは当たり前。政治活動の行き過ぎより政治への無関心の方が深刻な国で、高校生の政治活動を制限する通知など必要なのでしょうか」と指摘する。

 東京都内の高校2年女子はツイッターで「この夏、18歳になる人は選挙に行く?」と尋ねたことがある。「行かない」が少し多かった。理由は「受験でそれどころじゃない」など。彼女自身も「投票に行きたいが、投票先をどう選んでいいかも分からない」と不安を打ち明ける。

 「票育」を掲げ、若者の政治意識向上のための出前授業を実施しているNPO法人「僕らの一歩が日本を変える。」(ぼくいち)。高校生メンバーの小林毅大(たけひろ)さん(17)は「高校生の間では『政治に関心を持つのは変な人』という意識が強い。僕も最初はそうだった。でも生徒会長に立候補して政治に関心を持ち、生徒会活動に携わる全国の高校生が集まるイベントで問題意識を持つ同世代に出会って視野が広がった。『ぼくいち』の活動で国会議員さんと直接話す機会を得て、政治に期待が芽生えた。だから僕も行動を起こすことで、誰かの政治的関心が高まると信じたい」と熱っぽく語る。

 学校の中で、外で、せっかく手にした投票権を生かすため行動する高校生はじわじわと増えている。大人や政治がせっかくの「芽」を摘み取ってはならない。
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