覚え書:「【書く人】こだわり捨てて柔軟に 『追いかけるな 大人の流儀5』作家・伊集院静さん(65)」、『朝日新聞』2016年01月17日(日)付。

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【書く人】

こだわり捨てて柔軟に 『追いかけるな 大人の流儀5』作家・伊集院静さん(65)

2016年1月17日
 
 大人のあり方をテーマにした人気エッセーシリーズの五作目。<別れる力><許す力>と巻を重ねてきたが、今回はタイトルに迷いがあったという。「編集者から提案されたんだけどね。僕は追い掛けるし、違うんじゃないのって」。だが半年ほど考えた末、納得した。「世の中の90%以上の人は、追いかけ続けて失敗しているように見える。前進するためには、こだわりを捨てて新しい世界を求めることも必要じゃないかとね」。つまり「前に進め」というところにメッセージの重心がある。「やっぱり追い掛けることも大事だとは思うけどね。わははは」。どちらもあり。柔軟性も大人には必要なのだ。
 仙台の自宅にいる飼い犬「ノボ」とのやりとり、先輩作家との思い出、日々のニュースに対する感想も。一見、気になる出来事を気軽につづっているように見えるが、どこかエッセーにとどまらない奥行きを感じさせる。それは自身が若いころに身内を亡くした体験などをもとに、読者の悲しみに寄り添おうという気持ちがあるからだろう。「たとえば悲しい人はこの帽子をかぶって街を歩く、とか決まっていれば分かりやすいけどね。大変たくさんの人が、ひそかに悲しみに耐えながら生きている。笑って踊っていられる人たちは、ほうっておけばいい。そうでない人に向けられるのが、小説であり、エッセーだと思う」
 ひときわ印象に残るのは三十年前、女優だった前妻・夏目雅子さんの通夜の席でのエピソードだ。彼女の祖父から「君は若い。一年と言わず、良い女性がいたらさっさと次の家庭を持ちなさい」と言われたという。そのころの思いとともに<悲しみには必ず終わりがやってくる>と、支えにしてきた言葉も記す。
 ここ五年ほどで『いねむり先生』『ノボさん』など、小説も精力的に発表してきた。仕事量を三倍に増やしたのだという。「出版社に借金があるからね」とざっくばらんに明かす。「やがて売れるもの書きますからと言ってね。海外に出かけ、いろいろ見てきました。六十歳になる少し前から準備をして。たくさん書いているうちに、それが平気な身体になった。競輪では最後までばてないことを『地脚(じあし)が強い』というんですけどね、そういうふうに書き続けないとね」
 講談社・一〇〇〇円。
  (中村陽子)
    −−「【書く人】こだわり捨てて柔軟に 『追いかけるな 大人の流儀5』作家・伊集院静さん(65)」、『朝日新聞』2016年01月17日(日)付。

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