覚え書:「言葉、無限の読み方 「折々のことば」のつくり方 鷲田清一さん×高橋源一郎さん」、『朝日新聞』2016年01月29日(金)付。
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言葉、無限の読み方 「折々のことば」のつくり方 鷲田清一さん×高橋源一郎さん
2016年1月29日
鷲田清一さん=いずれも鈴木好之撮影
写真・図版
本紙連載「折々のことば」筆者の鷲田清一さんと、「論壇時評」筆者の高橋源一郎さんが、東京都内で22日に「『折々のことば』のつくり方」をテーマに対談しました。エッセンスをご紹介します。
高橋 「折々のことば」には有名な人の言葉もあるけれど、この人誰?っていうのも結構多いですね。
鷲田 意外と知られていない本の、知られていない言葉を使おうと思っているんです。哲学者の鶴見俊輔さんは、ハイアートではなく、祭りや俳句や落書きなど、アートと大衆芸能の境界にあるものを「限界芸術」と呼びました。哲学は、新しい理論を発明するのではなくて、人々の暮らしの中にある大事なものを発見するものだとも言っています。僕はこれまで「限界哲学」をやってきたところがあり、こういう場面で哲学をやりたいという気持ちがある。
高橋 一般的な名言集や箴言(しんげん)集とは対極にありますね。キレのある「深い」言葉ばかりだと、こっちが入る余地がないじゃないですか。
鷲田さんは、「現場」に行って考える臨床哲学をしています。現場で何かを真剣に考えたら、それが哲学の萌芽(ほうが)になる。どんな言葉にも哲学の芽があるということですよね。逆にいうと、言葉を言った人より聞く人の方が問題なわけです。たとえば「おかわりぃ!」(鷲田さんの孫が観劇後に叫んだ言葉。昨年10月12日に紹介)という言葉は、「これがすごいよ」って説明する人がいないと、通り過ぎてしまう。鷲田さんの説明があるから、言葉はいろんな見方、読み方ができるということが見えてくる。言葉は単独でそこにあるわけじゃなく、受け手と出し手がいて初めてコミュニケーションが生まれ、新しい意味が付け加わる。物を書く場合も一緒で、オリジナルな言葉は使わなくても、読んでくれる人に新しい経験として伝わればいい。
鷲田 コンテクスト(文脈)は無限にある。論壇時評は、引用する論文やエッセーのつなげ方が意外でぞくぞくします。全然違うコンテクストから言葉の感触も全然違うものをひっぱってくるでしょう。
高橋 僕も「折々の社会のことば」を探しているわけです。探すと、こんなところにあるの?と思うようなところで見つかる。その人がきちんと生きてきたということを、説明している言葉、あるいは説明はしにくいけれど、何かが伝わるような言葉がある。
鷲田 知人の銀行員が「口下手な行員のほうが成績がいいんです」(同4月9日)と話していました。立て板に水で話すタイプの人って、僕苦手なんです。隙なく、書き言葉のように話す人がいますよね。それからプレゼンテーションのうまい人。そして、ヘイトスピーチがそうですが、自己への懐疑がなく、当たったら相手が絶対ケガをするとわかっているのに、つぶてのような言葉を投げるタイプ。
高橋 でもそういう言葉に人間は弱い。昔競馬場の近くに怪しい予想屋がいっぱいいて、「絶対当たる必勝法」を売っていました。その人たちのトークを聞いていると、だんだん、もしかしたら当たるのかも、いや絶対当たる、と思えてくる(笑)。難民や弱者をののしる言葉にしても、常識や良識で考えればありえないと思うけれど、意外と人間は弱い。僕たちの知的な部分は、通俗的な感情と切り離されてるわけじゃないんですよね。同じ一人の人間の中、その根っこでくっついているのは認めざるを得ない。だからいつも注意して、言葉と世界と向かい合っていないと。
鷲田 言葉の意味を理解することと、それに心底納得できるということのズレって常にあると思うんですよね。納得ということは、本当に体に染みこんでくることなんですけど、それが常に正しいとは限らないところが、言葉の危ういところかなと。
高橋 僕だって何か言われてムカッと来ることがあります。大切なのは、こういう言葉を聞くとかすかに抵抗がある、言う時に抵抗がある、っていう自分の中の抵抗感です。
鷲田 納得し、理解できる言葉ばかりでなく、理解できないところへ連れてってくれる言葉が大事だと思います。
高橋 中2の冬、うどん屋で突然友だちが吉本隆明さんの詩集を出して、朗読してくれたんです。僕は1行も理解できなかった。でも感動して泣きたくなった。理解はできなくても、感じることはできる。そしてそれはとても大切なことだと思います。
(構成・高重治香)
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−−「言葉、無限の読み方 「折々のことば」のつくり方 鷲田清一さん×高橋源一郎さん」、『朝日新聞』2016年01月29日(金)付。
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http://www.asahi.com/articles/DA3S12183057.html