覚え書:「書評:歴史家 山辺健太郎と現代 中塚明 編著」、『東京新聞』2016年01月24日(日)付。

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歴史家 山辺健太郎と現代 中塚明 編著

2016年1月24日
 
朝鮮侵略の真実追う
[評者]小倉紀蔵=京都大教授
 天衣無縫でなにものも恐れない歴史家。無精髭(ぶしょうひげ)と下駄(げた)がトレードマーク。一九〇五年生まれ。小学校卒という学歴。戦前、社会主義運動に没頭し、投獄され、そこで朝鮮人の金天海に出逢(であ)ったことが朝鮮史研究の原動力となる。戦後は、風呂敷を持って国立国会図書館の憲政資料室に通い詰める。在野で通した彼の「研究室」がそこだったのだ。この男こそ、『日韓併合小史』や『社会主義運動半生記』などで有名な山辺健太郎だ。
 権力による歴史の捏造(ねつぞう)に抗し、「コンチクショウという根性」で「うそと俗説をうちやぶること」が、山辺歴史学の骨幹だ。そのためには、第一次史料に徹底的にこだわる。特に戦前の文献には改竄(かいざん)が多いので、それらを見抜くためにも、原史料の一字一句を眼光紙背に徹するまで読みぬく。日本社会主義および日本資本主義のことがわかるためには、日本が植民地朝鮮をどのように収奪したかがわからなくてはならない。「朝鮮史を書くということは、日本の侵略を書くことだ」という、日本における朝鮮研究の原型を確固とつくった。そして若い人びとにかぎりない知的刺激を与え続けた。
 これほど魅力的な歴史家はそうざらにはいない。本書は山辺自身の文章や彼の知人たちによる評などを集めた部分が中心の、「山辺入門」とでもいうべき本だ。本格的な山辺伝の登場を希求する。
(高文研・2376円)
 <なかつか・あきら> 奈良女子大名誉教授。著書『近代日本と朝鮮』など。
◆もう1冊
 アジア民衆史研究会ほか編『日韓民衆史研究の最前線』(有志舎)。新しい民衆史を目指す日韓の研究者の共同論集。
    −−「書評:歴史家 山辺健太郎と現代 中塚明 編著」、『東京新聞』2016年01月24日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016012402000165.html



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