覚え書:「書評:サルタヒコの謎を解く 藤井耕一郎 著」、『東京新聞』2016年01月24日(日)付。

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サルタヒコの謎を解く 藤井耕一郎 著

2016年1月24日
 
◆神話と縄文、弥生つなぐ
[評者]岡村道雄=考古学者
 評者は縄文遺跡の調査や活用のために、東北を旅することが多い。そこでサルタヒコを祀(まつ)った祠(ほこら)や猿田彦神社、曲がった大きな鼻と大きな赤目の仮面をかぶって祭列を先導する大男・サルタヒコの話を聞くことがある。サルタヒコは『古事記』や『日本書紀』に登場する。天照大神の孫にあたる天津神(ニニギ)が「天孫降臨」を行うが、それを先導した国津神であった。アメノウズメと争って、大きな赤い目で威嚇して睨(にら)み合ったが、女陰を露(あら)わにしたアメノウズメに負けたとも記されている。
 これら神話は、広く各地に流布して伝承されてきた。『遠野物語』にいくつも登場する山に住む眼光鋭い赤ら顔の大男や、各地に残る山の神や山男などの伝承も、稲作農耕を基盤に成立し始めた権力と、縄文的在地の人々との関係を表しているように思う。
 戦後、神話は歴史学・考古学としては封印され、学問的には排除されてきた。しかし、神話にはそれが記録された古代まで、伝えられてきた権力の成立や移動・変遷などと、その時代の様子が反映されていると考えられる。
 著者は地名や事柄を拾い、近年の多くの発掘成果も踏まえ、日本歴史の基層・古層にあった縄文・弥生文化とのつながりを考察する。考古学的にも縄文時代には、一万年以上にわたって日本文化の基層が形成され、多くが今日に伝えられてきたことが明らかだ。特に呪術や祭祀(さいし)が人びとを支え、日本文化の精神的基盤となってきたが、本書でも銅鐸(どうたく)や仮面や土偶祭祀、あるいは櫛(くし)や簪(かんざし)の呪力、沿岸漁が栄えた地域などを取り上げて神話を解説する。
 弥生土器には女陰を露わにした鳥装のシャーマンが描かれ、縄文土器にも頭に羽根飾りを着けた人が表現されていて、アメノウズメにつながりそうである。古代史の謎解きがあれこれ興味深く展開されているが、逆に神話に基づく仮説を立て、考古学的史実を解釈してみるのも面白いかもしれない。
河出書房新社・2592円)
 <ふじい・こういちろう> 科学ジャーナリスト。著書『大国主物部氏』など。
◆もう1冊
 鎌田東二編著『隠された神 サルタヒコ』(大和書房)。民俗学や神話学の研究者らが、日本神話に登場するサルタヒコの謎に迫る。
    −−「書評:サルタヒコの謎を解く 藤井耕一郎 著」、『東京新聞』2016年01月24日(日)付。

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