覚え書:「革命とパンダ [著]張予思 [評者]武田徹(評論家・恵泉女学園大教授)」、『朝日新聞』2016年02月07日(日)付。

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革命とパンダ [著]張予思
[評者]武田徹(評論家・恵泉女学園大教授)  [掲載]2016年02月07日   [ジャンル]歴史 政治 社会 

■中国をステレオタイプ化する日本

 2009年に中国から来日した著者を出迎えたのは書店に氾濫(はんらん)する「嫌中本」だった。ことほどさように対中感情は今やひどく悪化している。
 だが戦後日本には「親中」の時期もあった。著者は1960年代末に全共闘学生を中心に中国の文化大革命への期待が広がったこと、70年代には国交回復を記念して贈られたパンダが中国への好感度を高めた事実に注目する。
 そうした「親中」が「嫌中」に変わる分水嶺(ぶんすいれい)となったのは80年代末。変革を望む若者に政府が銃口を向けた天安門事件を機に「革命中国」の輝きは失せ、経済改革路線を歩み始めた中国は「パンダの国」の素朴なイメージを損なう環境問題大国になってゆく。
 もっとも、それは起こるべくして起きた変化ではなかったか。「親中」の時期の日本人は自分たちに欠けるものを中国という「他者」に投影していた。米国と共に冷戦構造の一翼を担う日本では不可能な文革に憧れ、国土を乱開発した日本と異なり、自然と繁栄を調和させている(らしい)中国の象徴にとパンダを祭り上げる。つまり「革命中国」も「パンダの中国」も理想を勝手に投影したステレオタイプユートピアであり、幻想に過ぎない以上、いつかは消える定めだったのだ。
 こうして中国イメージの興亡を描く修士論文を完成させた著者は、今は日本の放送局で働く。最近では領土を侵犯する「脅威」か、爆買いする「成金(なりきん)」か、相変わらず中国をステレオタイプ化するメディアに「二日に一回」は「腹を立て」つつ、自分もその「共犯者」になっていないかと悩んでいるという。
 その逡巡(しゅんじゅん)する思いが、いつか画一的なイメージを超えて日中間の多様な対話を実現させる仕事へと結実することに期待したい。修士論文の成果をまとめ直した本書は、そんな著者の仕事を待つ間に読まれる格好のメディア・リテラシーの教科書となろう。
    ◇
 イースト・プレス・1836円/ちょう・よし 86年、中国・南京市生まれ。09年来日、13年テレビ朝日に入社。
    −−「革命とパンダ [著]張予思 [評者]武田徹(評論家・恵泉女学園大教授)」、『朝日新聞』2016年02月07日(日)付。

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中国をステレオタイプ化する日本|好書好日








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張予思
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