覚え書:「メディア時評:報道の自由 守る気概はあるか=佐藤学・沖縄国際大教授(米国政治)」、『毎日新聞』2016年02月20日(土)付。

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メディア時評
報道の自由 守る気概はあるか=佐藤学・沖縄国際大教授(米国政治)

毎日新聞2016年2月20日 東京朝刊

 米大統領選に向けた民主、共和両党の候補者指名争いが始まった。毎日新聞の報道を見ると、米国での党員集会の様相が広く知られていない中、2月3日の紙面で初戦となったアイオワ州党員集会の模様をつぶさに取り上げ、有益だった。またニューハンプシャー州予備選では、候補者指名の仕組みから同州予備選の位置付け、今後の展望を深く扱っていた(11日)。候補者指名までの論戦で明らかにされる米国社会の現状を、これからも丁寧に追ってもらいたい。また、日本で十分に理解されていない米大統領連邦議会の関係なども折に触れて解説を求めたい。

 一方、高市早苗総務相の「電波停止」発言が、報道機関全体から大きな批判を生みだしていないように見え、懸念される。その点、12日の毎日「特集ワイド 日本『報道の自由』の危機」は、海外メディア東京特派員の見方を報じて興味深い。米国では1970年代、ニクソン大統領がペンタゴン・ペーパーズのリークとウォーターゲート事件の二つの局面で、新聞社へのあからさまな弾圧を試み、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストはそれと闘って報道の自由を守った。権力が批判者を潰そうとするのは異例ではない。それを止めるのは最終的には国民の意思である。日本国民にその自覚があるのだろうか。

 沖縄県では1月24日に米軍普天間飛行場を抱える宜野湾市の市長選があった。普天間の名護市辺野古への県内移設に影響を与えると見られた選挙の結果は、自公政権が異例のテコ入れを図り、現職が大勝した。読売新聞、産経新聞以外では、全国紙、地方紙の多くが、この結果は沖縄県民の辺野古容認への民意変化を示したものではないとの見解を示している。その実態は2月9日の毎日「記者の目‥宜野湾市長選 普天間の行方」に書かれたことに尽きる。宜野湾市民の選択は普天間の早期返還要求であり、勝った現職も在職4年間に辺野古容認とは言っていない。

 9日の朝日新聞は、防衛省陸上自衛隊の新型輸送機オスプレイ佐賀空港配備を断念せざるをえない場合に備えて、千葉県の木更津駐屯地を候補地として検討していたことを報じた。これは防衛省が佐賀配備の大義名分としていた離島奪還や南西シフトに矛盾する。オスプレイ導入の理由が安全保障上でなく、巨費を投じて米国から購入することにあるというカラクリの一端を示したといえる。今後の各紙の報道を注視したい。(西部本社発行紙面を基に論評)
    −−「メディア時評:報道の自由 守る気概はあるか=佐藤学・沖縄国際大教授(米国政治)」、『毎日新聞』2016年02月20日(土)付。

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