覚え書:「書評:行列の尻っ尾 木山捷平 著」、『東京新聞』2016年03月13日(日)付。

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行列の尻っ尾 木山捷平 著

2016年3月13日
 
◆てっぺんより端っこ
[評者]岩阪恵子=作家
 木山捷平の未刊行の随筆集『行列の尻(し)っ尾(ぽ)』と、同じく短篇集『暢気(のんき)な電報』が刊行された。語られる日常の些細(ささい)な事柄はつかまえどころがないのに、いつの間にか読み手の心が解きほぐされてしまう面白さは、この二冊にも健在である。
 本書の「行列の尻っ尾」という題そのものが、集中の「私は最高とかてっぺんとかいうものは性に合わないが、ハシという場所には妙にひかれる」(「北海道と私」)というくだりを想起させる。こう打ち明けられるだけで、一も二もなく共感してしまうのは、世の中のことはハシ(端)からのほうがかえってよく見えたりするものだからである。
 人権ならぬ「基本的飲権」が主張されているくらい酒の話も多い。飲んべえだった木山さんは、実際、酒のおかげで死なずに戦後、混乱と不安と酷寒の旧満州から引き揚げてこられたのだった。その引き揚げ船の中で、敗戦を終戦と言い換え疑いもしない祖国と祖国の人々に首を傾(かし)げたのだった。
 「人生なんてそんなにおもしろいところでもなかった」と、六十歳を前にして木山さんは洩(も)らしている。それは実感にちがいなかったろうが、木山さんの作品を読むと、そんな人生が捨てがたいものに思われてくるからふしぎだ。この作家の人を見る目の温かさと素朴な反骨精神のゆえであろうか。
 (幻戯書房・4104円)
<きやま・しょうへい> 1904〜68年。小説家。著書『去年今年』『大陸の細道』など。
◆もう1冊 
 木山捷平著『酔いざめ日記』(講談社文芸文庫)。貧乏暮らし、戦争、文壇事情など、二十代から晩年までの日記。
    −−「書評:行列の尻っ尾 木山捷平 著」、『東京新聞』2016年03月13日(日)付。

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