覚え書:「書評:まちは しずかに あゆみだす 中日新聞編集局編」、『東京新聞』2016年03月13日(日)付。

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まちは しずかに あゆみだす 中日新聞編集局編

2016年3月13日


◆喪失から大胆な挑戦
[評者]亀山郁夫名古屋外国語大学
 3・11の悲劇から五年。かけがえのない一冊が誕生した。中日新聞記者二十一名が現地取材を通してつづった復興のドキュメント。被災した人々の心に渦巻く喪失感と再起への努力に思わず涙腺がゆるむ。私自身、かつて東京から三陸−福島まで千五百キロを走破する中で辿りついた発見があった。現場には現場でしか経験できない別次元のリアリティーがあり、悲劇は一人一人の悲しみを記録することでしか癒やされないということ。本書の数々のドラマは人間が人間であることの意味を、ヒューマニズムの精神そのものを原点に立ち返って教えてくれる。
 全二十一章で喪失から希望へと向かう静かな歩みが浮き彫りにされる。届くことのない相手への手紙を受け取る漂流ポスト、海を見下ろす高台に立つ風の電話など喪失のエピソードが胸に染みるが、力点はむしろ、そうした「喪失」を乗り越え、生活の大胆な組み替えに挑む人々の努力に置かれている。
 紹介される試みは、いずれも「革命的」とでも表したくなる斬新なものばかり。トレーラーハウスを活用した宿泊村の建設、東北沿岸部の六十寺をめぐる「三陸遍路みち」の提唱…。何より印象的なのは、記者のペンが丹念に写しとった東北の言葉のもつ美しさだ。全体を通して、それらはさながら生命そのものの声のように響く。
 取材・執筆は朝田憲祐デスクをはじめ、社会部、地方支局の記者が担当。
 (中日新聞社・1512円)
◆もう1冊 
 スーザン・ソンタグ著『他者の苦痛へのまなざし』(みすず書房)。映像を通して他者の不幸を見る行為の意味を探る。
    −−「書評:まちは しずかに あゆみだす 中日新聞編集局編」、『東京新聞』2016年03月13日(日)付。

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