覚え書:「書評:桜前線開架宣言 山田航 編著」、『東京新聞』2016年03月20日(日)付。

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桜前線開架宣言 山田航 編著

2016年3月20日
 
◆若手短歌しなやかに
[評者]田中綾=歌人北海学園大教授
 「二十一世紀は短歌が勝ちます」。あとがきで、編著者の山田航はそう断言する。一九八三年生まれの新鋭歌人だ。
 その断言を例証するべく、四十人の短歌が収録されているが、いずれも年齢は七○年以降生まれの若手ばかり。現代短歌の最前線走者によるアンソロジーの趣で多くが日常語による口語短歌である。
  わたしは別におしゃれではなく写メールで地元を撮ったりして暮らしてる  永井祐
 一読、緊張感のない韻律で、やる気のなさそうな「わたし」が歌われているが、それはむしろ「わたし」に固執する近代短歌に近く、多忙な現代の「生き抜き方の方法論」なのだと解説されている。
  過去にだれともであわないでよ
  若いきすしないでよ
  今 産まれてきてよ  今橋愛
 三行書きで、ひらがなを多用する作者。この余白の多い字面に、山田航は古典和歌の優美で柔和な精神世界を感じ取っている。一見緩慢なこれら現代短歌が、まぎれもなく、古典から近代短歌を経て今ここにあるという短歌史観が、解説の端々からうかがえるのが興味深い。
  3番線快速電車が通過します理解できない人は下がって  中澤系
 本書の歌群が「理解できない人」は、潔く辞しても良い。他方、表現に鋭敏な人々は、吸い寄せられることだろう。
(左右社・2376円)
<やまだ・わたる> 1983年生まれ。歌人。著書『さよならバグ・チルドレン』など。
◆もう1冊
 穂村弘著『短歌という爆弾』(小学館文庫)。一九六二年生まれの歌人が、短歌の作り方や読解術を伝授する入門書。
    −−「書評:桜前線開架宣言 山田航 編著」、『東京新聞』2016年03月20日(日)付。

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