覚え書:「書評:家康、江戸を建てる 門井慶喜 著」、『東京新聞』2016年03月27日(日)付。

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家康、江戸を建てる 門井慶喜 著

2016年3月27日
 
◆大事業に技術者の力
[評者]森彰英=ジャーナリスト
 天正十八年(一五九〇)夏、小田原攻めの陣中で、徳川家康豊臣秀吉から北条家の旧領地関東八カ国を譲り受ける場面から始まる。物語は歴史小説の造りだが、読み進むうちに壮大なプロジェクトをテーマにしたノンフィクションにも思えてくる。利根川の流れを東にねじ曲げて肥沃(ひよく)な大地を創出する(「流れを変える」)、吹立御用(ふきたてごよう)(貨幣鋳造)という仕事を通して描かれる江戸と上方の通貨戦争(「金貨(きん)を延べる」)、武蔵野の浄水を江戸市内に取り入れる(「飲み水を引く」)、江戸城石垣の造成競争(「石垣を積む」)という四つの大事業がそれに携わった技術エリートたちの生きざまと仕事ぶりを通じて描かれる。彼らはとても江戸人と思えない。いま地球的規模で活躍する先端技術者たちが現場でアクシデントと闘う姿と重なり合うからだ。
 著者の懇切な手引きで、読者は関東平野を歩き回り、工事現場を仮想体験できる。その場所が現代のどこかも的確に示されるから、リアリティ充分だ。最終章「天守を起こす」では、大坂城天守閣が黒壁なのに対してなぜ江戸城は白壁かという問題をめぐり、江戸普請のオーナーである家康・秀忠父子が対立する場面がスリリングだ。末尾七行がその結論だが、実は著者が本書を書いた意図の集約ではないか。未読の方のお楽しみのために、引用は差し控えよう。
 (祥伝社 ・ 1944円)
<かどい・よしのぶ> 1971年生まれ。作家。著書『新選組颯爽録』など。
◆もう1冊 
 鈴木理生(まさお)著『江戸はこうして造られた』(ちくま学芸文庫)。家康の江戸入りから百万都市になるまでの百年を描く。
    −−「書評:家康、江戸を建てる 門井慶喜 著」、『東京新聞』2016年03月27日(日)付。

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