覚え書:「【書く人】当時のままワイワイと 『女子大で「源氏物語」を読む』 津田塾大教授・木村朗子さん(47)」、『東京新聞』2016年03月27日(日)付。

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【書く人】

当時のままワイワイと 『女子大で「源氏物語」を読む』 津田塾大教授・木村朗子さん(47)

2016年3月27日

 津田塾大で二〇一四年春から半年間、女子学生約八十人と『源氏物語』の冒頭「桐壺(きりつぼ)」から第十帖(じょう)「賢木(さかき)」までの巻を読んだ。その講義をまとめた一冊だ。
 <光源氏の「女を落とす術」的なものは呆(あき)れるほど精巧で手が込んでいる>といった学生のコメントが随所で紹介される。女性たちがワイワイ感想を言い合いながら読んでいた平安時代を思わせる。
 「『源氏物語』はこんなに長いのにきちんとした伏線が張られ、終わり方も仏教思想などの単純なものに回収されない。人間を描いたという意味で普遍性があります。著者の紫式部は何千年に一度の天才だと感じます。学生には『源氏物語は面白い』という印象だけでも持ってもらいたいと思いました」
 学生は国際関係学科などの所属で、日本文学が専門ではない。彼女たちのために『源氏物語』を現代の視点から読み解き、その魅力を丁寧に伝える本書は、格好の入門書として楽しめる。
 光源氏が女性と関係を持つ場面で、一部の研究者らが「レイプではないか」と指摘していることに対し、本書で強く反論した。
 そもそも源氏が女性の部屋に入るには、女性に仕える人や肉親の協力が不可欠だった。当時は男女が自由に結婚相手を選ぶ制度ではない。一夫多妻制で、夫婦は一緒に住まない「通い婚」だった。こうした状況を踏まえ、「レイプではない」と理詰めで反論する言葉には説得力がある。
 「二〇〇八年の源氏物語千年紀のころから『レイプ説』を主張する声が出始めて、私はずっと『とんでもない』と怒っていたんです。正しく読めばこうなる、と示したかった」
 大学では米国文学を専攻したが、米国旅行で「日本の紹介者」の立場に置かれたことで、日本文学に目覚める。大学院から『源氏物語』の研究を始めた。
 東日本大震災後の文学を論じた『震災後文学論』を二〇一三年に刊行して注目を浴びて以降、文芸評論の仕事も多い。
 「データやノンフィクションを読んで分かることは結局、ガラスの向こうにあることです。でも小説を読めば、ある種の疑似体験ができる。海外の小説を読めば、その国を旅して人に会うのと同じことができるんです。『小説を読まなきゃだめだ』と常に学生たちに話しています」
 青土社・二三七六円。
 (石井敬)
    −−「【書く人】当時のままワイワイと 『女子大で「源氏物語」を読む』 津田塾大教授・木村朗子さん(47)」、『東京新聞』2016年03月27日(日)付。

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