覚え書:「【書く人】社会が変わる原動力に 『美の考古学 古代人は何に魅せられてきたか』考古学者・松木武彦さん(55)」、『東京新聞』2016年04月03日(日)付。

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【書く人】

社会が変わる原動力に 『美の考古学 古代人は何に魅せられてきたか』考古学者・松木武彦さん(55) 

2016年4月3日

 考古学の本なのに、メスにアピールするためのクジャクの飾り羽やライオンのたてがみから説き起こす。政治、経済の側面から歴史を物語る伝統の手法とは一線を画し、ヒトの認知や生物学的進化の歩みを考古資料に求めるのが進化考古学。その代表的研究者ならではの一冊だ。
 ここでいう「美」とは、人間の心の働きを誘引した姿形、色彩のすべてを指す。「きれい」「美しい」にとどまらず「気持ち悪い」「不安だ」といった感情を引き起こすのも「美」の仕業ということになる。
 「モノには物理的機能とは別に心理的機能が多かれ少なかれあり、後者の切り口として『美』という言葉が最もフィットするのではないかと。では、人間にとって美はどんな意味をなしてきたのか。それは社会を組み立てる接着剤のような存在であり、ならば歴史のどこかに痕跡が残っているはずだ。心理的機能が石器や土器にどう表現され変化したかを追っ掛けることで、また違った人類史をつむぎたい。そんなところが本書の出発点です」
 煮炊きの機能を阻害するほど飾り立てられた縄文土器、五段、三段と奇数を志向して築かれた前方後円墳−。文字なき時代における考古学的現象の裏には環境、ライフスタイル、人間関係の変化に連動する美があり、社会を次の段階に進める原動力になったと説く。
 日本考古学ではなじみが薄い、人間の内面に注目した歴史観。もともと生物学が好きだったが「数学と物理がだめで」文学部に進んだのがきっかけとなった。進化考古学を表だって発信したのは、岡山大助教授になって数年たち「変なことを書いても大丈夫になった」四十歳ごろから。先進地の英国にも留学し、体系的な分析でパターンを見いだすことにより、思想、心理的な部分も信憑性(しんぴょうせい)ある形で語れると確信した。
 二年前、同大教授から国立歴史民俗博物館教授へ。考古資料を直接使い展示で研究成果を還元する職場に変わり、モノが本来持つ魅力、価値をいかに引き出すかを強く意識するようになった。「本書も博物館に来たからこそ書けた。今後、説明の付け方、見せ方など何か新たな展開があればいい」。定年まであと十年。学史に残るような仕事もしたいと、さらに踏ん張るつもりでいる。新潮選書・一四〇四円。 (谷村卓哉)
    −−「【書く人】社会が変わる原動力に 『美の考古学 古代人は何に魅せられてきたか』考古学者・松木武彦さん(55)」、『東京新聞』2016年04月03日(日)付。

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