覚え書:「特集ワイド:甘利問題、逃げるが勝ち? 違法性疑念、しっかり説明必要」、『毎日新聞』2016年04月04日(月)付夕刊。

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特集ワイド
甘利問題、逃げるが勝ち? 違法性疑念、しっかり説明必要

毎日新聞2016年4月4日 東京夕刊

口利き疑惑を受けて記者会見で辞任を表明し、涙を浮かべる甘利明経済再生担当相。追加説明はいつになるのか=東京都千代田区で2016年1月28日、喜屋武真之介撮影

 「政治とカネ」の問題で、甘利明衆院議員が経済再生担当相を辞任してから2カ月が過ぎた。辞任を表明した1月下旬の記者会見では「さらに調査を進める」などと述べたが、いまだに追加説明はない。それどころか「病気」を理由に国会に姿を見せていない。これで国会議員の重責を果たしていると言えるのだろうか。【葛西大博】

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 問題発覚後、甘利氏の選挙区である神奈川13区(大和、海老名、座間、綾瀬市)を何度か歩いた。3月下旬のある日、「自民党広報板」と書かれた掲示板に張られた甘利氏単独だったポスターが、参院選の党公認候補とのツーショットに変わったことに気がついた。衆院議員は参院選の候補者を応援しているというアピールなのだろう。甘利氏は2月中旬に「睡眠障害で自宅療養が必要」との診断書を提出し、1カ月間国会を欠席、3月中旬にも2カ月間療養する意向を国会に伝えている。このポスターを見る限り、同日選になるかどうかは分からないが、次の衆院選に立候補する意思はあるということなのか。

 辞任会見後、説明の場を設けない甘利氏の姿勢を厳しく批判するのが、政治アナリストの伊藤惇夫さん。「5月下旬には主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が予定されており、国会は5月中旬以降、実質的に休止状態に入る見込みです。甘利さんは病欠を延長するので、6月1日までの通常国会で説明責任を果たすつもりはないのでしょう」

 疑惑があっても当選すれば「みそぎ」は済む−−。これまで政界では何度も繰り返されてきたことだが、伊藤さんは「甘利さんが、次回の衆院選で当選さえすれば『政治とカネ』問題は終わったと思っていたら大間違い。有権者はそんなことを許してはいけない」と怒りをあらわにする。

 当然、この人も怒っている。民進党の幹事長、枝野幸男氏は「2カ月休むことになれば(野党が追及する時間確保が難しくなる)国会の終盤になります。これでは甘利氏は『逃げ得』を図ろうとしていると批判されても仕方がありません」。

 ここで、甘利氏の「政治とカネ」問題を振り返ってみたい。週刊文春が、神奈川県大和市の地元事務所の秘書が千葉県の建設会社と都市再生機構(UR)の補償交渉を巡り、口利きを依頼されて現金を受け取ったと報道したのが発端だった。国会などで問題を追及された甘利氏は1月28日に辞任を表明した記者会見で、この建設会社側から2013年11月に大臣室で50万円、14年2月に地元事務所で50万円の計100万円を自ら受け取ったことを認めた。現金について甘利氏は「政治資金としてきちんと処理するように秘書に指示したと思う」と説明。一方、秘書については、建設会社側から受け取った500万円のうち200万円しか政治資金収支報告書に記載せず、残り300万円を私的に使ったと説明した。

 70分間に及んだ辞任会見での主な発言を表にまとめた。まず、表の(1)に注目してほしい。甘利氏は「引き続き調査を進め、公表する」と明言している。さらに、安倍晋三首相は「甘利氏がしっかりと説明責任を果たしていくと思う」などと再三にわたって述べている。甘利氏は病気が回復すれば説明すべきなのは無論のこと、政府や自民党も疑惑について説明を促す責任があるはずだ。

 甘利氏の行為は違法ではとの疑問も拭えない。弁護士でつくる「社会文化法律センター」は3月16日、甘利氏と元秘書に、政治家や秘書が口利きで報酬を得ることを禁じるあっせん利得処罰法違反の疑いがあるとして東京地検に告発状を出した。センター代表の宮里邦雄弁護士は記者会見で「秘書の責任だけでなく、甘利氏の共犯も問えると判断した」と述べた。

 また、「政治資金オンブズマン」共同代表の上脇博之・神戸学院大法学部教授らも、あっせん利得処罰法違反と政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いがあるとして、刑事告発を検討中だ。

 立件の可能性について、東京地検特捜部検事などを歴任した郷原信郎弁護士が説明する。「今までの種々雑多の『政治とカネ』の問題とは全く違う。まさに絵に描いたようなあっせん利得と言えます。最終的に起訴できるかどうかは証拠に基づいて判断しなければいけませんが、与党の有力な議員で行革担当相を経験した甘利氏は独立行政法人のURの問題に大きな影響力を持っており、秘書もそれを十分に認識して活動しているはず。(立件に必要な)『議員の権限に基づく影響力』があることは明らかでしょう」

 郷原さんが注目するのが表の(2)の発言。甘利氏は「東京地検特捜部出身の弁護士に調査を依頼した」と述べたが、その氏名は不明。郷原さんは「いまだに公表しないようでは存在さえ疑ってしまう。また、しっかりとした調査をやっていると世間に思わせるために『特捜ブランド』を悪用しているとも思える」と指摘する。

 そこで、甘利氏の事務所に取材を申し込んだ。調査結果を明らかにする記者会見を開く予定はあるのか▽調査している弁護士名を公表するのか−−などの質問への回答を得るためだ。

 事務所側は「甘利自身については、あっせん利得処罰法に当たるような事実は全くありません」などの回答を文書で寄せた。ただ、質問への直接的な回答はなかった。

 事務所のホームページによると、甘利氏の座右の銘は「得意淡然 失意泰然」。失意のときも焦ることなくゆったりとしており、得意のときもおごることなくさっぱりとしている態度をいう(旺文社「成語林」より)。

 安倍政権の看板大臣を辞任した甘利氏は失意のどん底にいるのだろう。だが、伊藤さんは「3カ月も国会を休むのですから泰然としているなんてとんでもない。国会議員が国会に出られないのは、それだけで『万死に値する』と言われた時代もありました」と語る。

 最後に表の(3)をご覧いただきたい。閣僚辞任を決断した心境を語った部分には、「政治家としての美学」や「政治家としての矜持(きょうじ)に鑑み」などと誇りがにじむ言葉が並んだ。

 しかし、である。「自ら認めた大臣室での現金授受の事実だけでも大臣辞任は当然。『政治家としての矜持』など関係ない。国会に出て来られず、説明もできないのならば議員を辞めるしかない」と憤るのは郷原さん。上脇さんは「甘利氏が『刑事訴追される可能性があるので黙秘します。これ以上調査をやりません』と、開き直るのならば分かります。しかし、議員を続けるのであれば、自ら率先して疑惑を晴らすのは当然のことです」と、追加の記者会見を促すのだ。

 説明責任を果たす。これこそ政治家が大切にすべき「生き様」ではないのだろうか。

甘利明氏が閣僚辞任を表明した記者会見での主な発言

(1)引き続き調査を進める

・本日は私自身の問題を中心に報告させていただきたい。事務所秘書の問題についても、本日できる限りの報告をするが、いまだ全容の解明には至っていない。引き続き調査を進め、しかるべきタイミングで公表する機会を持たせてもらうことについて、ご理解いただきたい。

(2)元検事の弁護士に調査を依頼

・(週刊文春の)本件記事を受け、当事務所とは今まで全く関係のない弁護士に調査を依頼した。この弁護士は、東京地検特捜部の経験を有する、元検事の経歴を持っている人物だ。公正な調査を担保するため、私は調査を担当した弁護士とは一切接触していない。

(3)閣僚を辞任

・たとえ私自身が全く関わっていなかった、知らなかったとしても、何ら国民に恥じることをしていなくても、秘書に責任転嫁することはできない。それは私の政治家としての美学、生き様に反する。

・国会議員としての秘書の監督責任、閣僚としての責務、および政治家としての矜持に鑑み、閣僚の職を辞することを決断した。
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