覚え書:「今週の本棚・この3冊 移民・難民 安田浩一・選」、『毎日新聞』2016年04月03日(日)付。

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今週の本棚・この3冊
移民・難民 安田浩一・選

毎日新聞2016年4月3日 東京朝刊
 

 <1>排除と抵抗の郊外 フランス<移民>集住地域の形成と変容(森千香子著/東京大学出版会/4968円)

 <2>在日外国人 第三版−−法の壁、心の溝(田中宏著/岩波新書/886円)

 <3>ストロベリー・デイズ 日系アメリカ人強制収容の記憶(デヴィッド・A・ナイワート著、ラッセル秀子訳/みすず書房/4320円)

 パリの同時襲撃事件から4カ月、今度はブリュッセルがテロの舞台となった。おそらくまた、偏狭なナショナリズムが活気づくに違いない。移民や難民が「敵」として位置づけられ、叩(たた)かれる。テロと差別は表裏一体の関係だ。社会を分断し、人を、地域を、内側から壊していく。だからこそ、対立と偏見を煽(あお)るための好戦的で威勢の良い言葉から私は距離を置きたいと考えている。

 森千香子の新著『排除と抵抗の郊外』は、こうした欧州の悲劇を「グローバル・テロリズム」対「民主主義」といった単純な図式に乗せることはできないと説いている。フランス社会におけるマイノリティとマジョリティの「亀裂」をテーマとした本書で、キーワードとなるのは「郊外」だ。この場合の「郊外」とは場所としての概念を超え、フランスでは「移民」のメタファーとして存在する。家賃の安い団地が林立し、移民集住地域として知られるパリ郊外を、多くのメディアは「テロの温床」「犯罪多発地帯」だと指摘してきた。しかしそれはフランス社会の主流が異端を「排除」した結果でもある。テロ実行犯の多くがこうした欧州の「郊外」で育った「ホームグロウン」である事実は、テロの背景に差別と偏見があることを示唆する。

 では、足元の日本を見てみよう。ヘイトスピーチが野放しにされ、在日コリアンやシリア難民を中傷するような書籍がベストセラーとなる国だ。トランプを嗤(わら)えない。田中宏は、半世紀前にアジア各国からの留学生と出会ったときから、一貫して日本社会で生きる外国人の心情に寄り添ってきた。マイノリティを囲む溝を埋め、立ちはだかる壁を壊すために戦ってきた。『在日外国人』はそうした田中の個人史でもあり、日本社会が公に認めてこなかった排除と差別の記録でもある。ヘイトスピーチがけっして新しい問題ではないことが浮き彫りにされる。

 移民や難民の存在を考えるとき、忘れてならないのは、日本もまた移民の送り出し国であり、同時に迫害を受けてきたという歴史的事実である。『ストロベリー・デイズ』は第二次大戦中、敵性外国人として強制収容所に送り込まれた米国在住日系人の証言をまとめたものだ。日系人は「ジャップ」と蔑(さげす)まれ、「出ていけ」と恫喝(どうかつ)された。

 排除される側に立った経験をも有している日本こそが、本来、先頭に立って差別と戦わなければいけないはずなのだ。
    −−「今週の本棚・この3冊 移民・難民 安田浩一・選」、『毎日新聞』2016年04月03日(日)付。

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