覚え書:「今週の本棚・本と人 『アメリカの排日運動と日米関係』 著者・簑原俊洋さん」、『毎日新聞』2016年04月03日(日)付。

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今週の本棚・本と人
アメリカの排日運動と日米関係』 著者・簑原俊洋さん

毎日新聞2016年4月3日 東京朝刊
 

 (朝日選書・1728円)

日米衝突の遠因に迫る 簑原俊洋(みのはら・としひろ)さん
 移民問題は、パワーや国益といった伝統的な外交・安全保障から遠い位置にある。それでもシリア難民の問題は今日、ヨーロッパを揺さぶっている。

 20世紀の初頭、日本人移民が日米の重大な懸案事項となった時代があった。特に1924年の排日移民法は、両国の友好に禍根を残した。

 「移民問題が日米関係に与えた影響を検証しようと試みました。問題の根底にあるのは、人種的な誇りという人間の感情です。不平等条約が近代化の原点だった日本人は、平等に扱われることに敏感でした」

 神戸大の教壇に立つ日系4世の国際政治学者。曽祖父の代に渡米し、自らも大学まで米国で学んだ。研究の出発点には、日本をルーツに持つアメリカ人としての誇りを胸に生き抜いた、祖母の存在があるという。

 史料を基にした理詰めの記述はそんな個人史を感じさせないが、それでも言葉の端々に日本への熱い思いがにじむ。「将来を見据え、移民の議論は通らなければいけない道。多種多様な日本であってほしい」と。

 日米対立の文脈において移民問題の位置づけが定まっているとはいえない。第二次大戦前は旧満州(現中国東北部)の利権拡大による中国問題が重要だという解釈と、排日移民法の成立が太平洋戦争の原因となったという解釈が対立する。

 著者は、移民問題を中国問題と並ぶ日米戦争の遠因と見なす別の解釈に立つ。本書は、カリフォルニア州に始まる排日運動約20年の歴史を丹念に追う。

 白眉(はくび)は排日移民法の舞台裏を描いた章である。成立の原因を日本大使の書簡に求める従来説に疑問を呈した。排日反対を撤回しなければ共和党は大統領選に勝てなかったという政治状況が、鮮やかに浮かび上がる。

 「選挙の年に、外交関係より国内問題が重視されたのです」

 <重大なる結果>という書簡の語句を、武力による<威嚇>と解釈したのは、共和党変節の正当化にすぎないという分析は説得力がある。

 この立法に日本の世論は沸騰した。政府は国益を優先して抗議を慎むが、国民の怒りに思慮を欠く結果になった。

 「日本はアメリカの議会とのつながりが脆弱(ぜいじゃく)でした。この経験に学ぶなら、万一トランプ氏が大統領になっても対処できるよう、国民レベルで日米関係を深化させる努力が欠かせません。結局、あの国を動かすのは国民ですから」<文と写真 岸俊光>
    −−「今週の本棚・本と人 『アメリカの排日運動と日米関係』 著者・簑原俊洋さん」、『毎日新聞』2016年04月03日(日)付。

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