覚え書:「書評:ハンセン病 日本と世界 ハンセン病フォーラム編」、『東京新聞』2016年04月03日(日)付。

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ハンセン病 日本と世界 ハンセン病フォーラム編

2016年4月3日
 
◆真の解決に向かって
[評者]黒坂愛衣(あい)=東北学院大准教授
 カラフルな本だ。ハンセン病療養所の風景やこの問題に関わった人々の笑顔のカラー写真がたくさん並ぶ。差別や隔離といった厳しい現実とともに、そこを生き抜いた回復者の生の断片や、かれらに寄り添った人々の声が紹介されている。
 例えば「自分たちが生きた証しを残したい」とハンセン病関係の資料を丹念に集め園内の図書館を充実させた男性と、その姿を撮り続けたカメラマンとの交流(山下道輔/黒崎彰)。入所者との五年越しの約束を果たし園内の舞台で「真実の拍手を受けた」と述懐する表現者杉良太郎)。国家賠償訴訟のさなか園に入り、過酷な体験を「『恥』ではなく『被害』として」証言する入所者たちの姿を見つめた研究者(蘭(あららぎ)由岐子)。有名人も登場し全体としては明るいイメージで、未知の読者も手に取りやすいだろう。
 「世界」がテーマの後半部では、日本財団による長年のハンセン病制圧事業の紹介が主軸だ。前半部、皇室の役割が肯定的に評価されるのもこの影響か。できれば各国のハンセン病をめぐる状況や当事者運動についての記述も欲しかった。
 「らい予防法」廃止から二十年。問題の風化が懸念される一方、この二月には「家族による国賠訴訟」が集団提訴された(熊本地裁)。本書中、家族問題に触れる回復者の語りもある。真の解決はこれからだ。
 (工作舎・2700円)
 執筆者は加賀乙彦武田徹松岡正剛ドリアン助川、ランバライ・シャーほか。
◆もう1冊 
 高木智子著『隔離の記憶』(彩流社)。隔離政策により社会的つながりを絶たれたハンセン病の人々を取材したルポ。
    −−「書評:ハンセン病 日本と世界 ハンセン病フォーラム編」、『東京新聞』2016年04月03日(日)付。

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