覚え書:「今週の本棚・本と人 『歌舞劇 ヤクシャガーナ』 著者・森尻純夫さん」、『毎日新聞』2016年04月10日(日)付。

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今週の本棚・本と人
『歌舞劇 ヤクシャガーナ』 著者・森尻純夫さん

毎日新聞2016年4月10日 東京朝刊

森尻純夫さん=宮間俊樹撮影


 (而立書房・2592円)

インド南部で湧き上がる文化 森尻純夫(もりじり・すみお)さん
 1960−70年代のアングラ劇ブームの嚆矢(こうし)となった演出家・鈴木忠志や劇作家・別役実らが築いた早稲田小劇場。76年、同劇場を鈴木たちが去った後に引き継ぎ、早稲田銅鑼魔(どらま)館として運営してきた生粋の演劇人である。インド南部の伝統的歌舞劇「ヤクシャガーナ」と出合って以来、現地の大学の客員教授を務めながら見つめ続けた芸能の神髄と歴史を語る。

 初めて現地で「ヤクシャガーナ」を見たのは89年。自身がルーツとしてきた小劇場やアングラ劇と同じく、既存の仕組みに頼らない土着的な舞台に、「これこそ地場が生んだ文化だ」と衝撃を受けたという。「自分にとってはワンダーランドだった」と振り返る。

 インド南部のカルナータカ州で受け継がれてきた歌舞劇。同州の南北にそれぞれ約20の劇団があり、25−65人の集団が11月から6月にかけての乾期に旅して渡り歩く。役者は男だけで女形もいる。「雨期にはIT関連の仕事をして、乾期に役者をする人たちも多い」という。仮設の野外テント劇場で夜通し繰り広げられる饗宴(きょうえん)。力強い音楽、技巧的な舞踊、ユニークな道化の動きを老若男女の観客たちが楽しむ。

 植民地として長く支配されてきた同地には英語を含む五つの言語があるが、「ヤクシャガーナ」は伝統的な公式言語の“カンナダ”で演じられる。「他民族に支配されていた時代、この伝統芸能が自分たちの言語を守るための大切なツールだった」と語る。そのため、現在も寺院や学校では「ヤクシャガーナ」を、次の時代を担う子供たちに伝えている。「自分たちの言葉を守る切実さは、植民地となった経験のない日本人には理解できない」とも指摘する。

 「ヤクシャガーナ」は90年代終わりから2000年代初めにかけて衰退したこともあるが、関係者たちの尽力で養成機関が充実し、スター俳優も生まれるなどして、今では一つの公演に数万人が集まるまで復活した。

 同書はインド伝統芸能の研究書としての要素を盛り込みつつ、初めて「ヤクシャガーナ」を知る人たちのために、南インドの風習や文化・芸能を紹介する囲み記事も数多く併載している。「読み物としても充実させたかった。民俗芸能はその土地から湧き上がる文化。日本にもつながるアジアの芸能文化の力を伝えたい」<文・木村光則 写真・宮間俊樹>
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