覚え書:「今週の本棚・新刊 『童謡の近代 メディアの変容と子ども文化』=周東美材・著」、『毎日新聞』2016年04月10日(日)付。

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今週の本棚・新刊
『童謡の近代 メディアの変容と子ども文化』=周東美材・著

毎日新聞2016年4月10日 東京朝刊
周東美材(よしき)・著
 (岩波現代全書・2700円)

 大正中期から昭和初期にかけての「童謡ブーム」を、メディアの変容と、文化の担い手としての「子ども」に注目して探った斬新な研究。

 童謡は1918(大正7)年創刊の雑誌『赤い鳥』に始まるが、当初は音楽と切り離された文芸の一つだった。童謡創作運動をリードした詩人の北原白秋は、大人が作曲するのではなく子どもが自然に歌う「わらべうた」のようでなければならないと主張していた。しかし『赤い鳥』を創刊した鈴木三重吉は、間もなく読者の求めに応じる形で「楽譜付きの童謡」を掲載していく。

 こうした白秋と三重吉の童謡観のずれや、作曲家の本居長世とその娘たち(「令嬢」)による童謡スター歌手誕生のプロセスは興味深い。背景にはレコード産業の本格的な確立など、複製技術による「二次的な声の文化」の生成があった。そして「子ども」の存在こそが、近代的なテクノロジーを古代的な象徴の世界と結び付け、新たな幻想的経験が開かれるのを可能にしたと論じている。

 近代日本で「子どもをめぐる大衆的なメディア文化」が展開していく様子を、童謡の流行という切り口から描き出している。(壱)
    −−「今週の本棚・新刊 『童謡の近代 メディアの変容と子ども文化』=周東美材・著」、『毎日新聞』2016年04月10日(日)付。

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