覚え書:「憲法を考える:自民改憲草案・家族:下 女性の地位向上は個人主義?」、『朝日新聞』2016年04月21日(木)付。

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憲法を考える:自民改憲草案・家族:下 女性の地位向上は個人主義
2016年04月21日

 自民党憲法改正草案は各条文に「見出し」をつけている。1条は「天皇」、9条は「平和主義」、そして24条は「家族、婚姻等に関する基本原則」だ。一方、現憲法に見出しはないが、出版社などが付したものが流布している。例えば有斐閣の「六法全書」では、1条「天皇の地位・国民主権」、9条「戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認」、24条「家族生活における個人の尊厳と両性の平等」。比べてみると、なかなか味わい深い。

 2004年、衆院憲法調査会自民党議員が発言していた。「(24条が)行き過ぎた個人主義という風潮を生んでいる側面も、私は否定できないと思う」

 どういう意味だろう。

 自民党が作った憲法改正PR漫画「ほのぼの一家の憲法改正ってなあに?」を読んでみる。

 ひいおじいちゃん(92)が、「現行憲法では男女平等が大きく謳(うた)われて 事実この70年で女性の地位は向上した」と語る横で、おじいちゃん(64)がつぶやく。「でも、個人の自由が強調されすぎて なんだか家族の絆とか地域の連帯が希薄になった70年かもしれませんねぇ」

 憲法を「家訓みたいなものかしら」とするこの漫画、女性の地位が向上したから家族の絆が薄れたと言いたいのだろうか。

 「女性にとって最も大切なことは、子どもを2人以上産むことです。これは仕事でキャリアを積むこと以上に価値があります」。大阪市の中学校長の発言を思い出す。2月29日の全校集会でのこと。高校入試を控えた女子生徒もいただろう。どんな思いで聞いたのだろう。

 私は、長崎県の離島で生まれ育った。母は20歳で結婚。父方の祖父を介護し、その間の家事は、私が担った。「女は勉強せんでもいい」という風土が、息苦しかった。法事のときは、地域の女性みんなで炊事をする。親戚付き合いは、何より優先されていた。「家族の絆」という美しい言葉では表せない、たくさんの葛藤があった。

 小学校高学年のとき、憲法に男女平等が書かれていることを知った。自分の生き方は自分で決められるんだ――。心の支えにしてきた。それでも、新聞記者になって地元に帰ったとき、中学時代の担任は開口一番、こう言った。「仕事もいいけど、子育てもちゃんとせんとね」

 1970年代は「日本型福祉」が称揚され、私の母のような専業主婦は、介護や育児の担い手として期待されていた。その後、経済が停滞し、97年には共働き世帯数が専業主婦世帯数を本格的に上回り、差は広がり続けている。それに伴い、保育所整備は進んだが、予算は圧倒的に不足している。

 一方で、少子化も進行した。安倍政権は「希望出生率1・8」を国の目標として掲げる。昨年9月には菅義偉官房長官が芸能人カップルの結婚に「ママさんたちが一緒に子どもを産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれたら」と発言。「1億総活躍」の号令が響く。

 産んで、働き、活躍して、家族の絆も守って。一つでもできないと「行き過ぎた個人主義」と言われてしまうのだろうか。

 (杉原里美)

    ◇

 「家族」編はこれで終わります。次週は「個人と人」編を掲載する予定です。
    −−「憲法を考える:自民改憲草案・家族:下 女性の地位向上は個人主義?」、『朝日新聞』2016年04月21日(木)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12320411.html


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