覚え書:「書評:模範郷 リービ英雄 著」、『東京新聞』2016年04月24日(日)付。

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模範郷 リービ英雄 著

2016年4月24日


◆自分探して故郷の旅
[評者]横尾和博=文芸評論家
 ほんのりと明るい私小説である。少年時代に住んだ台湾の家を五十二年ぶりに訪れる話だ。米国人である著者は外交官の父を持ち、台湾や日本など東アジアの国で成長した。そして母語の英語ではなく日本語で思考し、小説を執筆している。国、制度、言語の枠を超えた多層な文化をもつ「越境の文学者」ならではの短篇作品集だ。明るさの根拠は、静謐(せいひつ)な文章と内向する意識を閉鎖的に描くのではなく、外部に開こうとの意思にある。
 「模範郷」は台中のある地区の「村」の名前。戦前支配していた日本人が整備した一画で、広い家並みの「モデル・ヴィレッジ」である。故郷再訪を誘われた「ぼく」はためらいながらも旅に出る。そこは一九五〇年代に父母と弟の一家四人で暮らした懐かしい場所だ。だが土地は大きな変貌を遂げ、父母の離婚で、その後一家も離散した。「ぼく」は、これまでも中国大陸の奥地に昔日の台湾の情景を求めて旅にでかけ、喪(うしな)われた時と場所を探していた。戦前の日本、台湾、中国、その複合的な要素が積み重なる場所で、西洋人として暮らした過去への思いは錯綜(さくそう)する。故郷とは何か、自分とは誰か。テーマは一貫している。
 著者は新宿の路地裏の古い家に住みながら、いまも何かを探し続ける。評者も著者と同年代で、青年時代を「しんじゅく」で過ごしただけに、共感を覚える。
集英社・1512円)
 <りーび・ひでお> 1950年生まれ。作家。著書『千々にくだけて』『天安門』など。
◆もう1冊
 リービ英雄著『星条旗の聞こえない部屋』(講談社文芸文庫)。アメリカ生まれの著者が日本語で書いたデビュー作。
    −−「書評:模範郷 リービ英雄 著」、『東京新聞』2016年04月24日(日)付。

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