覚え書:「書評:自然を楽しむ 見る・描く・伝える 盛口満 著」、『東京新聞』2016年04月24日(日)付。

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自然を楽しむ 見る・描く・伝える 盛口満 著

2016年4月24日


◆全生物の図鑑夢見て
[評者]安渓遊地(あんけいゆうじ)=山口県立大教授
 この本は、少年時代に『地球全生物図鑑』を作るという夢を抱いた著者(ゲッチョ先生)の、万華鏡のような何十冊にもおよぶ著作の総まとめだ。ゲッチョ先生はどこにでも現れ、何にでも目を輝かし、忙しく手を動かす記録魔である。手許(てもと)を見ないで会話を書きとる速記の技は人類学者も真似(まね)ができない。
 本書は、教室に突然ブタの頭蓋骨が降臨し、フライドチキンが教材になるゲッチョ先生の授業に似て、身近なものが実は見知らぬ奥深い生物世界への秘密の入り口であることを教える奇想に満ちている。海辺で生物の死骸を探し、見知らぬ骨に歓声をあげる子どもたち。ゴキブリ、ナメクジ、クモにハチ。嫌われ者もまた強い関心を呼ぶよい教材だ。
 ゲッチョ先生の生物スケッチ集『カマキリ通信』は、一日一ページを超えるペースで長年刊行されている。百五十万種を擁する『地球全生物図鑑』完成まで、あと五千年かかるという。しかし「この貝はなぜここに落ちているのか」という個別の問いは「なぜあの貝はここに落ちていないのか」という全体像への視点に飛躍する。いのちあふれる奇跡の星の一員として、全生命の全歴史を見据えた地球博物誌執筆への確かな足がかりを、著者は本書でついに得たのだ。
 街に暮らし、自然には興味がないという人にこそ処方したい旬の本である。
東京大学出版会・2916円)
 <もりぐち・みつる> 1962年生まれ。沖縄大教授。著書『生き物の描き方』など。
◆もう1冊
 池田和子著『ジュゴン』(平凡社新書)。ゲッチョ先生も研究する、南の海に棲(す)む不思議な生き物の生態や進化を探る。
    −−「書評:自然を楽しむ 見る・描く・伝える 盛口満 著」、『東京新聞』2016年04月24日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016042402000183.html








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自然を楽しむ: 見る・描く・伝える
盛口 満
東京大学出版会
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