覚え書:「書評:古代東アジアの女帝 入江曜子 著」、『東京新聞』2016年04月24日(日)付。

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古代東アジアの女帝 入江曜子 著

2016年4月24日


◆男王と異なる大胆な発想
[評者]高橋千劔破(ちはや)=作家・評論家
 七世紀の幕が開いたとき、日本の天皇は女性であった。推古天皇である。そして七世紀の幕が間もなく下りようとするときの天皇もまた、女性であった。持統天皇である。その間、皇極天皇斉明天皇の時代があった。皇極と斉明は同一人物だが、女性である。推古から持統まで、女帝の統治はじつに五十五年間に及んでいる。また、七世紀の歴史に大きく関わった女性に、舒明天皇の皇女である間人(はしひと)と、天智天皇の皇后であった倭姫(やまとひめ)がいる。まさに七世紀は、女帝の世紀であった。
 さらに東アジアに目を転ずれば、七世紀の新羅には、善徳王と真徳王という、二人の女帝がいた。また中国には、周を打ち立てた武則天則天武后)がいる。七世紀の東アジアは、日本・新羅・唐の社会が、旧来の貴族国家から、律令(りつりょう)を柱とする中央集権国家へと移行する過程であるが、それぞれ異なる地層の上に立っていたと、著者はいう。古い体質を残す新羅、爛熟期(らんじゅくき)に達した唐、その中間で発展期の日本。
 推古は、東アジア最初の女帝として登場する。夫である敏達の没後、用明と崇峻の、陰謀と武力抗争の時代の黒幕として行動し、さらに即位後は、隋と唐との王朝交替という東アジア世界の変動のなかで、長期政権を維持、大化改新に至る国の形の礎を築いた。そこには、これまでの男王とは異なる新鮮かつ大胆な発想があった。何か、はぜひ本書をお読みいただきたい。
 朝鮮半島の場合はどうか。三国が並立していた。南下を図る高句麗と東への膨張を図る百済。その絶え間ない武力侵入の前に存亡が危ぶまれていた新羅に、六三二年、東アジア第二の女帝が出現した。善徳である。
 そして東アジアの七世紀最後の女帝として、武則天が登場する。中国史上ただ一人の女帝だ。彼女たちはどう生きたのか。本書は、これまで矮小化(わいしょうか)されてきた女帝たちに新たなる息吹を与える。古代史ファンや女性史愛好家に限らず、興味をひかれる一書である。
岩波新書・842円)
 <いりえ・ようこ> 1935年生まれ。作家。著書『溥儀』『教科書が危ない』など。
◆もう1冊
 仁藤敦史著『女帝の世紀』(角川選書)。六世紀末に即位した推古から八世紀の称徳まで八代の女帝。その時代と皇位継承システムを考察。
    −−「書評:古代東アジアの女帝 入江曜子 著」、『東京新聞』2016年04月24日(日)付。

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