覚え書:「【書く人】同調圧力ニャンのその 『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』 著述家・古谷経衡さん(33)」、『東京新聞』2016年05月08日(日)付。

Resize2021

        • -

【書く人】

同調圧力ニャンのその 『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』 著述家・古谷経衡さん(33)

2016年5月8日


 猫を溺愛する人が増えている。書店には愛猫家が喜ぶ雑誌や書籍がたくさん並び、インターネット上には「アイドル猫」が続々と登場する。猫の飼育数は、初めて犬の飼育数を超えようとする勢いを見せている。
 本書は、犬を偏愛したヒトラーの物語から始め、この猫ブームの背景に何があるのかを、世界史的な視野から論じた一冊だ。「猫の写真集はたくさん出ていても、ブームの背景を分析した猫論は、ありそうでなかった。ずっと書きたかった本です」
 京都で学生生活を送っていた二〇〇六年春、生まれたばかりの二匹の捨て猫を見つけたのが始まりだった。犬猫と接触した経験がほとんどなかった古谷さんだが、義侠心(ぎきょうしん)から動物病院に持ち込んで命を救い、自分で育て始めた。一匹は間もなく死んだが、もう一匹はすくすくと育った。今も自宅で一緒に暮らす雄のチャン太だ。「この出会いは運命としか言いようがない。猫無しの人生は考えられないようになりました」
 猫に「自由」「放任」「個人主義」といった性質を見て、それを尊ぶのが「猫性の社会」と定義する。逆に「忠誠」「従順」「上意下達の縦型構造」といった犬的な性質を尊ぶのは「犬性の社会」。日本は江戸時代は「猫性」だったが、戦時期からバブル期まで「犬性」が続き、その後は「猫性」となって今に至る、と分析する。
 「単なる『カワイイ』だけではない。猫の背後に人々が何を見ているかを考えました。猫のような自由を求めているけれども、まだそれを獲得できていない、という過渡期にあるからこそ、このブームが続いている。それだけ今の社会が厳しいのだと思います」
 大学の史学科を七年かけて卒業した後、執筆活動を始めた。憲法九条の改定を持論とする「保守派」だが、ネット右翼の現状を厳しく批判し、排外主義には断固として反対する。『左翼も右翼もウソばかり』(新潮新書)という著書名から分かるように、イデオロギーに縛られない是々非々の立場を貫く論客だ。
 「徒党を組んだり、集団にいることがいいという同調圧力が嫌なんです。それに従うことを良しとする人たちを笑うような本を作っていきたい。その姿勢が図らずも、猫と重なってきたなと思います」
 コア新書・八五〇円。 (石井敬)
    −−「【書く人】同調圧力ニャンのその 『ヒトラーはなぜ猫が嫌いだったのか』 著述家・古谷経衡さん(33)」、『東京新聞』2016年05月08日(日)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2016050802000174.html


Resize1542