覚え書:「著者に会いたい「戦後日中関係と同窓会」 佐藤量さん [文]今村優莉」、『朝日新聞』2016年05月01日(日)付。

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著者に会いたい
「戦後日中関係と同窓会」 佐藤量さん
[文]今村優莉  [掲載]2016年05月01日

■日本に人生を翻弄された人々

 旧満州中国東北部)の日本人学校に通った中国人は、戦後どのような人生を送ったのか。本書は、人類学を専攻する佐藤量さん(立命館大講師)がマイノリティーに注目していった結果生まれた。「『中国人は反日教育を受けている』という見方がはやるが、日本と関わったことで人生を翻弄(ほんろう)された人がいたことを知って欲しい」と語る。
 大学生の時、夏目漱石の随筆「満韓ところどころ」の植民地への蔑視的表現に驚いた。満州について調べ始め、ある男性と出会う。朝鮮で生まれ、創氏改名を受けて「日本人」となり、大連に移って日本人学校に通う。戦後は中国籍を取得するが、文化大革命で迫害を受け……。「こんな人がいたんだ、と衝撃でした」
 関東州(現大連)には60余りの日本人学校があったことも知る。1学級40人中、中国人は5人ほど。日本との懸け橋役を期待されたエリートたちだが、戦後は日本のスパイと呼ばれた。満鉄系の鉄工所勤務者も多く、中国が重工業に力を入れ始めた1950年代は逆に重宝されるも、その後、文革の荒波にもまれる。
 歴史に振り回された彼らの心のよりどころが「同窓会」だった。単なる親睦団体ではない。職探しや記憶を共有するため「なくてはならない」存在だったと佐藤さんは見る。10の同窓会、約40人に取材し、数百の同窓会誌を読み込んだ。本書には、こっそり集まり日本語の校歌を歌ったエピソードなどをつづる。
 心の傷が生々しく残る人がいる一方で、自身の教え子は「満州って日本人がいたんですか」と聞く。「今の日本は歴史をきちんと教えていない。日中間にある多面的な背景を知ることから理解は始まる」
 (彩流社・3888円)
 (文と写真・今村優莉
    −−「著者に会いたい「戦後日中関係と同窓会」 佐藤量さん [文]今村優莉」、『朝日新聞』2016年05月01日(日)付。

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