覚え書:「福田恒存アンソロジー完結 「保守」とは何かに答え 文芸批評家・浜崎洋介さんに聞く」、『毎日新聞』2016年4月25日(月)付夕刊。

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福田恒存アンソロジー完結 「保守」とは何かに答え 文芸批評家・浜崎洋介さんに聞く

毎日新聞2016年4月25日 東京夕刊

福田恒存 文芸評論家 翻訳家 劇作家=1965年12月写真部撮影

 戦後の保守派論客の巨人として知られる福田恒存(つねあり)(1912−94年)のアンソロジー3部作が完結した。版元の文芸春秋によると、合わせて2万1500部を発行し、学術系の選集としては好調な売れ行きを続けている。編者と解説を務めた文芸批評家の浜崎洋介さん(37)に、福田思想の現代性について聞いた。

 古典的名著を新たな視点で編む文庫サイズの「文春学芸ライブラリー」の3冊。『保守とは何か』(2013年)、『国家とは何か』(14年)、『人間とは何か』(16年)。価格は1458−1587円。テーマごとに分かりやすく編さんし、深遠な福田思想の入門編と位置づけている。

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 福田は有名な評論「一匹と九十九匹と」(47年)で、政治は「99匹」を救えても、残る「1匹」には無力だと書いた。文学はこの「1匹」の救いに賭けなければならない。福田はここで、性質が全く異なる政治と文学のあり方を問うている。

 「今の息苦しくなった社会に福田恒存の考えはフィットするのだと思う。現実からこぼれ落ちてしまった『1匹』を救えるのは、文学であり、今自分がここにいるという実感。政治の言葉と文学の言葉の混同のなかで、我々は孤立し、右往左往しています」

 「実感」を得るためには、「まずは自分の足元にある歴史、言葉、自然を見ることです。そのことで他者との間に信頼感が醸成されます」。浜崎さんは「保守」としての福田の思想をそう解説する。切実な現代性があるから、3冊の選集が読まれているとも述べた。

 <「保守」とは、主義ではなく態度である>と福田は言う。保守化傾向が指摘される現代の日本において、そもそも「保守」とは何なのか。この疑問に答える企画意図もあったという。「近代化とは個人が共同体の外に出ること。革新主義は不安な個人を『未来』で囲い込み、一方の復古主義、右派はもう一度『過去』に戻ろうとする。革新と復古は近代の宿痾(しゅくあ)ですが、保守はそんな近代のからくりに覚めるところから始まります。では私を支えるのは何か。保守は自分の足元を見る」

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 浜崎さんは高校時代、哲学者の柄谷行人さん(74)の文芸批評に影響を受け、文学の道を志した。日本大芸術学部に進学し、卒業論文中上健次修士論文小林秀雄、そして博士論文で福田を取り上げた。博士論文は、11年刊行の『福田恒存 思想の<かたち>』(新曜社)の原形となっている。福田との出会いを「自分のニヒリズム虚無主義)をいやしてくれた。僕の『1匹』が反応したわけです」と語った。

 福田は翻訳家、劇作家、演出家としても知られた。今後も浜崎さんが福田恒存の仕事を編み直す選集の刊行を予定している。【棚部秀行】
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