覚え書:「書評:沖縄自立の経済学 屋嘉宗彦 著」、『東京新聞』2016年05月29日(日)付。

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沖縄自立の経済学 屋嘉宗彦 著

2016年5月29日


自給率と観光産業が鍵に
[評者]川平成雄=沖縄社会経済史研究室長・歴史学者
 
 「沖縄自立の経済学」とは魅惑的なタイトルだ。著者は『沖縄の自立と日本−「復帰」40年の問いかけ』(岩波書店、二〇一三年)に収められている大田昌秀、新川明、稲嶺惠一、新崎盛暉の四者の座談会「沖縄の自立と日本の自立を考える」で司会を担当した屋嘉宗彦である。
 提言の軸には、沖縄の自立に向けて何をするのか、がある。経済学の立場から「難しい問題は、自給率を高めつつ移出型産業を育成するという点にある」としながら、次のような主張を展開する。「作り手が頑張ると同時に地域住民・消費者が誇りを持って自分たちの産物を利用するということが、第一の実践的・具体的な沖縄自立の姿勢であり戦略である」「観光・リゾート産業を移出型産業の中心として振興する」−これこそ肝要であり、実現するには「住民と一体となって考え、実行する姿勢」が大切だと唱える。
 だがこのことは、視座が異なるものの、これまで多くの論者によって語られており、新しいものとはいえない。本書の特徴は「沖縄の経済的自立の問題をふくめて経済活動の方向を大きく選択していく際には、経済理論を知る必要がある」とする立場から、重商主義論、重商主義論批判、貿易論、有効需要論、発展途上国開発経済論、を踏まえ、これまでの実証的な分析からは得られることの少なかった沖縄の自立の道筋を示したところにある。
 「沖縄の日本からの経済的自立は可能か、またその時間的距離範囲をどう考えるか、本書は、この完全な経済的自立の可能性の検討までを射程に置く」と帯にある。しかし、この試みが成功しているか否かについては、読者の判断に委ねるしかない。
 今ほど、「歴史の鏡を磨く」(寺島実郎)中で、沖縄の現実と向き合い、未来への展望を切り開く時は、ない。沖縄の経済自立が問われている今、本書はその一助となるだろう。
 (七つ森書館・2376円)
 <やか・むねひこ> 法政大教授。著書『増補 マルクス経済学と近代経済学』など。
◆もう1冊 
 松島泰勝著『沖縄島嶼(とうしょ)経済史』(藤原書店)。十二世紀から現在までの沖縄の経済と経済思想を検討し、沖縄の進むべき道を展望する。
    −−「書評:沖縄自立の経済学 屋嘉宗彦 著」、『東京新聞』2016年05月29日(日)付。

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http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2016052902000191.html


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