覚え書:「中学時代、5千円で売春 「これで上履きが買える」」、『朝日新聞』2016年05月09日(月)付。

Resize2440

        • -

中学時代、5千円で売春 「これで上履きが買える」
2016年5月9日

支援団体のシェルターで食事する女子生徒=川村直子撮影
■子どもと貧困 頼れない親

3歳児、おなかすいて盗んだ 両親は借金背負い不在
特集:子どもと貧困
 「それ、奴隷だよ」

 北関東の定時制高校のベテラン教員の言葉を、3年の女子生徒(18)はすぐにはのみ込めなかった。

 生徒は2013年から、自動車部品の加工工場に住み込みで働いていた。14年、定時制に入学し、通学しながら週5日、計30時間の勤務。給与明細はもらっておらず、手取りは月2万円弱。そこから定期代を払い、食事は1日1食、袋麺を食べていた。社長にあてがわれた家は外から施錠できず、水はさび臭くて飲めなかった。

 「時給も知らない」という生徒の話を聞き、教員は15年春、校内で支援会議を開いた。「早く今のところを出て、新しいバイトと家を見つける」と方針を決めて提案した。

 「授業に必要」と言って生徒が出してもらった給与明細で、時給は分かった。最低賃金は上回り、勤務日数も合っていたが、詳細がわからない生活費など約4万円が引かれていた。学費も「会社から納める」として1万円引かれていたが、ときどき滞納されていた。

 生徒は定時制の保証人になってくれた社長に恩を感じていた。でも、満足な食事ができないのはつらく、15年秋、黙って逃げた。

 生徒はもともと実家に住んでいたが、中学卒業と同時に追い出された。連れ子がいた継母に「高校に行きたいなら施設に入って。嫌なら一人で生きて」と言われた。児童養護施設で荒れた姉を見て一人を選んだ。

 継母に用意されたアパートに移り、飲食店でバイトした。バイト代は継母管理の口座に入り、手元に届くのは月5千円だけだった。

 実家に頼らず高校に行こうと保証人になってくれそうな親戚を探すうち、知り合った人から「働いたほうがいい」と紹介されたのが、その工場だった。

 今は交際相手(24)名義で借りた部屋に住む。スーパーでバイトし、収入は月11万円。食事が少しましになり、カレーも作る。

リストカット繰り返す

 関東の高校1年の女子生徒(15)は2年前、東京・新宿のレンタルルームで売春し、男から5千円を受け取った。「これで上履きが買える」と思った。

 母子家庭で、母親は生活保護を受けながら、ほぼ交際相手の家で暮らす。生徒もそこで寝泊まりし、日常的に暴力や罵倒を受ける。

 小遣いはなく、学用品は祖母らからのお年玉約1万円で賄うよう言われた。中学生では簡単に働けず、ジャージーなど高い物があると残ったお金ではノートも買えなかった。

 売春経験は中学時代に2度。友人と遊ぶお金もなく、家にもいたくなくて、新宿を歩いていて声をかけられた。手を軽くつかまれると体がこわばった。必要とされたような錯覚と殴られる恐怖から、きっぱり断れず、「お金もないし」と身をまかせた。2度目は1万円。ノートや通学かばんに消えた。

 その後、ネットで支援団体とつながり、自分が法的には児童買春の被害者だと知った。罪悪感と自己嫌悪が少し和らぎ、繰り返したリストカットは止まった。

 団体の助言で、親元を離れるため児童相談所への相談を考えたが、親に伝わると知ってやめた。「親にキレられるのが怖い。高校卒業まで我慢する」(中塚久美子、後藤泰良)

■不当労働や買春、7千人送検

 警察庁によると、児童を不当に働かせたり児童買春したりした福祉犯の送検者数は、2011年をピークにやや減っているものの15年は約7千人で、10年前より約1千人多い。

 名寄市立大(北海道)の山野良一教授(児童福祉)は「社会経験が乏しく、住まいなどで問題を抱える貧困状態の子どもは、劣悪な労働環境の担い手や安価な性の対象として狙われやすい」と警鐘を鳴らす。

 被害を防ぐには困っている子どもを早く見つけ、支援や保護することが必要。だが、こうした居場所のない子を狙う大人が路上やネットなどで積極的に接触を図る一方、多くの公的機関は窓口で待っているのが実情だ。

 山野教授は、身だしなみの変化や支払いの遅れなどに学校が気を配ったり、命に関わらないケースにも児童相談所が積極的に介入したりできる態勢を整えるべきだと訴える。「民間団体の活用も含め、SOSを24時間受け止められる仕組みが重要」とし、電話相談の拡充や児童館を活用した居場所作りなどを提案する。

■主な相談窓口

●24時間子供SOSダイヤル 子どものSOSの相談窓口。子どもや保護者らからの電話を原則、各地の教育委員会の相談機関が受ける。電話は0120・0・78310(なやみいおう)

●子どもの人権110番 最寄りの法務局・地方法務局につながり、法務局職員か人権擁護委員が、虐待やいじめ、体罰などの相談に応じる。電話は0120・007・110(平日の午前8時半〜午後5時15分)
    −−覚え書:「中学時代、5千円で売春 「これで上履きが買える」」、『朝日新聞』2016年05月09日(月)付。

        • -


中学時代、5千円で売春 「これで上履きが買える」:朝日新聞デジタル





Resize2435

Resize1905