覚え書:「書評:日本会議の研究 菅野完 著」、『東京新聞』2016年06月19日(日)付。


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日本会議の研究 菅野完 著

2016年6月19日


◆「反憲」団体の内幕 丹念に
[評者]沼田良=政治学
 なぜ政権は反動化し、街角でヘイトスピーチが多発するのか。単に社会が右傾したせいか。本書はこうした通念を排して、これが「一群の人々」による執拗(しつよう)な運動の成果であることを実証しようとしたノンフィクション・リポートである。渦中にある話題の書だ。一群の人々とは「日本会議」を中心とした特異な保守系集団である。本書はその実態に迫る。内幕を広く可視化した意義は小さくない。
 分析される側には歓迎できない本のようで、刊行の直前に当事者から差し止め要求があったという。ただし、著者は対象と冷静に向き合い、丹念に取材を重ねて記述している。
 彼らは安倍内閣に強い影響力を持っており、現に閣僚の多くが関係団体「日本会議国会議員懇談会」に属している。人権を制限して首相に権限を集中させる緊急事態条項など、自民党改憲案の骨子はこの集団の主張と符合している、という。そうであれば、得心の行くことが多い。
 現行憲法を否定し骨抜きにする「反憲」によって、明治憲法への「復憲」をめざす。結果として、この復古的なナショナリズムと、TPPなど現下のグローバルな新自由主義とが政権内で混在する。無定見さが危うい。本書によれば、彼らの多くは「生長の家」の関係者だった。同教団が一九八三年に路線変更した後、本体から離脱した古参の政治グループという。反民主的な諸政策を、署名集めや地方議会の意見書など一見民主的な手法で推進する。
 社会現象としての日本会議の背景は何か。それは、この国の未成熟さだと思えてならない。憲法の理念どおりの生活を経験していない戦後が産み落とした異形だと言えるだろう。
 日本会議が問題なのは、現政権に密着した巨大な圧力団体だからだ。なぜ生長の家の旧政治グループが安倍首相と結びついたのか。日本会議はどのように安倍内閣を「上部工作」したのか。さらなる解明が待たれる。
 (扶桑社新書・864円)
 <すがの・たもつ> 1974年生まれ。著述家。著書『保守の本分』(noiehoie名義)。
◆もう1冊
 上杉聰著『日本会議とは何か』(合同ブックレット)。安倍政権を支え、改憲運動を推進する巨大組織の論理と手法を紹介する。
    −−「書評:日本会議の研究 菅野完 著」、『東京新聞』2016年06月19日(日)付。

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