覚え書:「メディア時評:「政権監視」の原点回帰を=前泊博盛・沖縄国際大教授(基地経済論)」、『毎日新聞』2016年05月14日(土)付。

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メディア時評
「政権監視」の原点回帰を=前泊博盛・沖縄国際大教授(基地経済論)

毎日新聞2016年5月14日

 メディアは「民主主義の番犬」と呼ばれ「第4の権力」として司法、立法、行政の「三権」を監視し、立憲主義に立ち、国民の権利と民主主義を守る役割を担うはずでした。「言論・報道の自由」が、基本的人権や民主主義を否定する独裁者や権力者、政権に対抗できる最大の武器であることは歴史が幾度も実証してきました。逆に権力者にとっては「のど元に突き付けられたあいくち」のようなもの。番犬たちをいかに飼いならすか。権力者らは常に仕掛けてきます。

 安倍政権がメディア幹部との懇談回数を増やし、従順な側に情報を提供し、批判的な番組や報道にクレームをつけ、時には幹部を呼びつけ、果ては担当大臣が「電波停止を命じる可能性」をちらつかせ、どう喝する。「強腰な巧みな現政権のメディア戦略」(江川紹子氏、3日共同通信配信)に脅かされる危機的状況に国連人権理事会の関係者も警鐘を鳴らしています(4月25日、毎日朝刊6面)。

 基地問題からメディアを眺めると、沖縄県民(主権者)が選挙で再三示した「辺野古新基地建設反対」の意思を無視し、政権の建設強行を支持する新聞の存在は脅威です。「民主主義はまずメディアから腐る」(山谷清志・同志社大教授)。まさに翁長雄志(おながたけし)・沖縄県知事辺野古裁判で訴える「民主主義の質」が問われています。

 普天間飛行場は「世界一危険な基地」で、危険性除去には「辺野古移設が唯一の解決策」などとする安倍政権を読売、産経、日経各紙は社説で支持しています。しかし、普天間は本当に「世界一」危険でしょうか。沖縄県の資料「沖縄の米軍及び自衛隊基地」(今年3月)によると、1972−2015年の米軍機事故は普天間飛行場内で15件、嘉手納飛行場内では約30倍の462件起きています。でも、なぜか「嘉手納の危険性除去」は紙面には出てきません。

 米大統領選の共和党候補指名を確実にした実業家ドナルド・トランプ氏の「米軍駐留費 全額負担を」(6日、毎日夕刊1面)との発言に「同盟はカネ次第なのか」(7日、毎日社説)、「日米同盟は空洞化する」(7日、日経社説)と右往左往しています。「米国への従属と米軍の永久的駐留に何の疑問も持たず、基地負担を沖縄に押しつけておけば万事安泰と考え思考停止する」(8日、沖縄タイムス社説)。そんな日本のメディアの現実も、トランプ発言の逆作用で浮き彫りになっています。(西部本社発行紙面を基に論評)
    −−「メディア時評:「政権監視」の原点回帰を=前泊博盛・沖縄国際大教授(基地経済論)」、『毎日新聞』2016年05月14日(土)付。

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