覚え書:「【書く人】踊り子の、その後の人生 『裸の華』 作家・桜木紫乃さん(51)」、『東京新聞』2016年07月17日(日)付。

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【書く人】

踊り子の、その後の人生 『裸の華』 作家・桜木紫乃さん(51)

2016年7月17日


 桜木紫乃さんは知る人ぞ知る、ストリップのファンである。踊り子は高度な技と心意気を尽くし、観客を麗しい桃源郷にいざなう。それは読み手を楽しませる小説でも同じだ。「作家も、舞台の上でパンツを下げる仕事なんです」
 物語の主人公は元ストリッパーのノリカ。舞台の上で大けがを負い、引退を決意した。ダンスショーの店を開こうと故郷の札幌に戻る。ダンサーを募集すると二人の若い女性が現れ、ノリカの指導で切磋琢磨(せっさたくま)していく…。登場人物それぞれが相手を思いやり、誠実に生きる様が胸を打つ。
 「月9(月曜夜九時のテレビドラマ枠)のつもりで書きました。未来のある人たちが、一瞬だけ交差点で出会い、また散っていく。ちょっとさわやかすぎたかな」と笑う。
 新人賞は取ったものの鳴かず飛ばずだった三十代の頃、名ストリッパーとの運命の出会いがあった。札幌の繁華街にあるストリップの「道頓堀劇場」。三歳ほど年上のその女性は、取材に訪れた桜木さんに開口一番、こう言った。「私のことを鬼とも悪魔とも、どうぞお好きなように書いてくださってけっこうです。表現者としてできる限りの協力をします」。表現者という言葉に、体が震えた。
 舞台を見て、さらにのめり込んだ。「一人の踊り子さんが二十分間で踊って、脱いで。これは短編小説だわと」。客同士が同じ空気を共有し、仕事も貧富も関係ない奇跡のような空間が生まれる。点滴を引きずって病院から駆けつける高齢の男性もいる。「踊り子さんは『お客さんはみんな子どもみたい』って。菩薩(ぼさつ)のように見えます」
 踊り子は鍛錬を怠らないアスリートでもある。「うまければうまいほど、手や足の先の美しさに視線がいく」という。物語のそこここに敬意がにじむ。
 桜木さんに表現者として語ってくれた名ストリッパーの女性は、その後行方知れずになった。『ホテル・ローヤル』で直木賞に選ばれた時、出版社気付で、手紙が届いた。たった五行で住所はなし。かっちりした丁寧な字で「腰力、粘り腰の勝利ですね」とあった。美しい踊りを生み出すのは腰が重要。涙がこぼれた。「行方を追うのは失礼だと思うので捜しません。この本を出して、元気だと知ってもらえたら。そんなラブレターでもあるんです」
 集英社・一六二〇円。 (出田阿生)
    −−「【書く人】踊り子の、その後の人生 『裸の華』 作家・桜木紫乃さん(51)」、『東京新聞』2016年07月17日(日)付。

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