覚え書:「くらしナビ・学ぶ 朝鮮学校 補助金指導に波紋 馳文科相「透明性確保」の通知」、『毎日新聞』2016年05月16日(月)付。

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くらしナビ・学ぶ
朝鮮学校 補助金指導に波紋 馳文科相「透明性確保」の通知

毎日新聞2016年5月16日 東京朝刊


文科相通知に抗議して記者会見する東京朝鮮中高級学校の愼校長(右から2人目)ら=日本外国特派員協会で4月12日

 朝鮮学校への補助金交付について、学校設置を認可する28都道府県に「透明性」などを求めた馳浩(はせひろし)文部科学相の通知が波紋を広げている。都道府県に権限がある補助金交付について中央が通知を出すのは異例で、馳氏は「補助金減額や自粛、停止を求めるものではない」と説明するが、通知を踏まえて今後の補助金交付のあり方を検討する自治体も出始めた。

 ●6000人超す子ども

 朝鮮学校は専門学校と同じように、学校教育法134条が定める、学校教育に類する教育をする「各種学校」に位置づけられ、設置には都道府県知事の認可が必要。一般の小中高校より少ないものの、多くの自治体が運営費や交流事業の名目で補助制度を設けている。文科省によると、日本の幼稚園、小学校、中学校、高校に相当する朝鮮学校は28都道府県に計68校(2015年5月時点で6校が休校中)あり、6000人を超える子どもたちが通っている。他に朝鮮大学校もある。

 馳氏は3月29日、朝鮮学校を認可する28都道府県に補助金を交付する場合は「適正かつ透明性のある執行の確保」を求める通知を初めて出した。朝鮮学校に通う子どもへの影響に十分な配慮を求めた上で(1)補助金の公益性、教育振興上の効果などに関する十分な検討(2)補助金の趣旨・目的に沿った適正かつ透明性のある執行の確保−−などを求めている。

 通知の背景には、北朝鮮による日本人拉致や核実験、ミサイル発射を巡る非難と政府による制裁がある。北朝鮮は02年9月の日朝首脳会談で拉致を認め、06年には長距離弾道ミサイルを発射し、核実験もした。ミサイル発射と核実験はその後も繰り返され、政府は北朝鮮への送金禁止などの制裁をしてきた。制裁に絡み、15年6月には自民党から朝鮮学校への補助金を全面停止すべきだなどとする提言が出ていた。

 朝鮮学校への補助金は、05年度の時点で、記録の保存期限が過ぎて不明という宮城、奈良、岡山3県を除く25都道府県が出していたが、10年度以降、東京都や大阪府などが拉致問題や学校の財務状態の健全性が確認できないなどの理由で支給や予算計上を見送り、14年度には補助金を出す自治体は18道府県にまで減った。文科省によると、14年度の補助金総額は約1億8600万円で、他に市区町から約1億8600万円が交付されている。神奈川県は13年度に学校への補助を廃止し、14年度から外国人学校に通う子の家庭に直接支給する学費補助をしている。

 ●5県教委「検討」

 毎日新聞が4月、文科相通知に対する受け止め方や今後の補助金支出について28都道府県教委に取材したところ、16年度予算に補助金を計上している18道府県のうち、引き続き支出すると答えたのは愛知県教委だけで、茨城、岐阜、三重、滋賀、和歌山の5県教委が、通知を踏まえて今後の対応を「検討する」と答えた。茨城県は学校側に「今の状況が続けば交付は困難」と伝えたという。

 特段の対応をしないと答えた新潟県補助金を予算計上しているものの、実際には「学校の財務状況が著しく健全性を欠く」として12年度以降、補助金を支給していない。担当者によると、年々生徒数が減って授業料や寄付金収入が落ち込み、「補助金を出す前提となる財務状況の健全性が欠けている」と判断したという。学校側からは運営改善計画書が出されたが、生徒確保策の具体的な説明がなく「経営改善の見通しが立たない」として交付見送りが続いているという。長野県と京都府の教委は「未定」だった。残りの9道県は「適切に対応する」「慎重に判断する」などと回答した。

「十分な教育保障を」
 全国朝鮮高級学校校長会会長を務める東京朝鮮中高級学校(東京都北区)の愼吉雄(シンギルン)校長(67)は「朝鮮学校は日本の教育指導要領に沿った教育もしている。私学並みの補助を受けられる資格が十分にある」と訴えたうえで「民族教育は政治に左右されてはならない。通知を拡大解釈して自粛する自治体が出てくるのではないか」と懸念する。

 愼校長らとともに4月12日、日本外国特派員協会で記者会見した朝鮮学校初級部に通学する子どもの母親は「朝鮮の言葉や歴史、文化を学ばせることで朝鮮人としての自負心を抱いてほしいという願いで子どもを通わせている。通知に強い憤りを感じる」と話した。

 埼玉、東京、京都の3弁護士会文科相通知を批判する会長声明を出した。東京弁護士会会長の声明は「生徒と無関係な外交問題を理由に補助金を停止することは憲法14条などが禁止する不当な差別に該当する疑いが高い」としている。

 中嶋哲彦・名古屋大大学院教授(教育行政学)は通知について「内容が明確でなく、朝鮮学校には公益性があると判断して補助金を出してきた都道府県は何を言われているかわからないだろう。国内の少数民族や外国人の教育への配慮は十分でなく、国は本来なら朝鮮学校を含めた外国人学校も通常の学校として扱い、十分な教育を保障するのが望ましい」と話している。【高木香奈】

 ▽2016年度予算に朝鮮学校への補助金を計上した18道府県

北海道、福島、茨城、栃木、群馬、新潟、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、京都、兵庫、和歌山、岡山、愛媛、福岡

 ▽計上しなかった10都府県

宮城、埼玉、千葉、東京、神奈川、福井、大阪、奈良、広島、山口

 ※神奈川は外国人学校に通う生徒・保護者に直接学費を補助し、福井と奈良は認可する朝鮮学校が休校中
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