覚え書:「著者に会いたい 恋するハンバーグ 佃 はじめ食堂 山口恵以子さん [文]木元健二」、『朝日新聞』2016年08月14日(日)付。

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著者に会いたい
恋するハンバーグ 佃 はじめ食堂 山口恵以子さん
[文]木元健二  [掲載]2016年08月14日

山口恵以子さん=山本和生撮影

■うそなき世界で思い募らせ

 松本清張賞の受賞は3年前。新聞配達員向けの食堂のおばちゃんとして働きながら粘り強く執筆をしてきた。そんな経歴に注目が集まった。
 「食堂は、わたしを作家にしてくれた故郷の村のような場所」。40代半ばから勤め、やがて正社員になった。安定した暮らし。足元を見つめ直し、ずっと目指していた脚本家をあきらめた。小説の世界に挑み、ようやく花開いた。
 思い出話は尽きない。配達員の体のことを念頭に置き、限られた予算でサラダバーを始め、魚中心のおかずの日も決めた。工夫を重ねていくと、無愛想な人も、ある日、あいさつをしてくれるように。
 「調理の世界には、うそがない。やる気は本人が考えている以上に伝わる。小説を書く営みでも、それはおんなじ」
 新作は、そんな思い入れをもとにつづった。
 「はじめ食堂」はホテルで副料理長をしていた孝蔵が、妻と開いた洋食屋。舞台は1965年から70年にかけての昭和の下町。高度成長時代の世相を背景に、無銭飲食した少年が食堂に雇われて出直したり、病んだ老人が求めたスープをきっかけに別れた妻と再会したり、と機微にふれる話が織りなされる。
 巻末にロールキャベツに海老(えび)フライといった自身による11品のレシピ集を添えた。かつてつかんだコツを記した。ハンバーグにはみじん切りしたニンニクとショウガを入れる。風味が一段増すという。
 学ぶことの多かった食堂を、2年前去った。「年齢を考えると、残された時間は小説を書くのに、めいっぱい使いたい」と決心した。ただ、筆一本で暮らす今、力の源はやはり食、と身に染みる。
    ◇
 角川春樹事務所・1512円
    −−「著者に会いたい 恋するハンバーグ 佃 はじめ食堂 山口恵以子さん [文]木元健二」、『朝日新聞』2016年08月14日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016081400012.html



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