覚え書:「売れてる本 終わった人 [著]内館牧子 [文]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2016年07月17日(日)付。

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売れてる本
終わった人 [著]内館牧子
[文]宮田珠己(エッセイスト)  [掲載]2016年07月17日
 
■いつかくる不安、その先は?

 なんとも不穏で気になるタイトルだ。このタイトルで本書を手に取った人も多いのではないだろうか。
 ここでいう「終わった」とは、定年を迎えた、もしくは社会の一線から退いたという意味だが、もっと言えば、もはや社会に必要とされていないということでもある。
 主人公は、東大法学部から国内トップのメガバンクに就職したサラリーマン。順調にキャリアを積み、役員になれるかと思った矢先に子会社へ出向させられ、そのまま転籍。この時点で主人公は「俺は終わった」という衝撃に襲われる。
 子会社には65歳までいられるものの、会社にしがみつくのを潔しとせず63歳で定年退職。本書は、その後の主人公の右往左往を描く。つまり「終わった」後の生きがいの探求がテーマである。
 思うように出世できず定年を迎え、心の整理をつけたつもりが、実はついていない主人公。
 過去の栄光にしがみつき、現状を受け入れられない。自分はまだやれる、終わってないと言い張る。しかしそれはいわゆる老害なのではないかと、本人もうすうす気づいており、逡巡(しゅんじゅん)と悪あがきが続いていく。
 自分はもう「終わった」(=社会に必要とされていない)という不安は、誰にでもいつかやってくるものだ。むしろ主人公ほどのエリートでないわれわれは、もっと早い段階で一度「終わっ」て、その先をどう生きるか、判断を迫られるのではなかろうか。
 私などサラリーマン2年目ぐらいから、常に自分が「終わった」ような気がし続けている。
 先日かつての同僚と集まったが、定年までまだまだ長いのに、みんなもおおむね「終わった」と言っていた。
 社会にとくに必要とされないのは普通のことであり、だからダメというわけでもない。自分はもう「終わった」のかと不安になってる人は、本書を読んで溜飲(りゅういん)を下げるといい。
    ◇
 講談社・1728円=12刷10万部 2015年9月刊行。「定年を迎えた世代、今後迎える世代の反響が大きい。男性中心に読まれていたが、女性読者も増えてきた」と担当編集者。
    −−「売れてる本 終わった人 [著]内館牧子 [文]宮田珠己(エッセイスト)」、『朝日新聞』2016年07月17日(日)付。

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終わった人
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内館 牧子
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