覚え書:「書評:日本人が知らない 最先端の「世界史」 福井義高 著」、『東京新聞』2016年08月21日(日)付。

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日本人が知らない 最先端の「世界史」 福井義高 著

2016年8月21日
 
◆「日独同罪論」の非を論証
[評者]平川祐弘=東京大名誉教授
 竹山道雄を読み直す企画で関川夏央が『ビルマの竪琴』の背景にふれ、「無謀きわまりないインパール作戦」と書いた(『こころ』32号)。竹山も終生そう思っていた。だがスガタ・ボースが米国で刊行したチャンドラ・ボース伝(本邦未訳)によると、その作戦にも三分の理があり、日本軍と共に戦ったボース指揮のインド国民軍は、時の経過とともに独立インドで高く評価されているという。パル判事の東京裁判批判もそうした線に沿って生まれたのだろう。日本とインドは歴史戦争で同盟国たりうると福井義高氏はいう。
 そんな「日本人が知らない世界史」の史実を鋭い筆致で紹介する著者は、東大法科出身、米国で学位を取り、国鉄勤務後、大学教授に転じた。歴史科出とは背景が異なり、目の付け所が違う。英独仏露の言葉に通じ、同一事件を表裏ともに見る。すると新視野がおのずと開け、センター試験で暗記した教科書史観が音を立てて崩れ出す。爽快だ。新型の知的歴史家の登場である。
 昨今のわが国には、文明史的に世界を眺め、その中で日本の位置を見定める林健太郎、田中美知太郎といったタイプの人がいなくなった。戦後、史学会を支配した左翼教授はもはやマルクス・レーニンを唱えることもできず、受験派史学の権威となったようだ。
 しかし、福井氏は問う。スターリンと手を組んだ者たちは果たして正義だったのか。ルーズベルト側近の共産党スパイはどうか。こうした問題提起は中西輝政氏ごのみだが、それよりも歴史修正主義論争が語られ、軍国日本とナチス・ドイツを同列に論ずることの非が整然と論証される「日独同罪論の落とし穴」の鋭さの方に私は感心した。この第一部は圧巻で、政治や歴史を語る者には必読の章といっていい。
 第三部では「大衆と知識人は、どちらが危険か」を論じ、焦眉の急の移民問題について民衆の本音に耳を傾けることの必要を強調している。時宜に適した分析である。
 (祥伝社・1728円)
 <ふくい・よしたか> 青山学院大教授。著書『鉄道は生き残れるか』など。
◆もう1冊
 楊海英(ようかいえい)著『逆転の大中国史』(文芸春秋)。最新の考古学や文化人類学の成果をもとに、ユーラシアの視点から中国史を相対化する試み。
    −−「書評:日本人が知らない 最先端の「世界史」 福井義高 著」、『東京新聞』2016年08月21日(日)付。

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