覚え書:「悩んで読むか、読んで悩むか 「人は人」、親子関係も風通し良く 斎藤環さん [文]斎藤環」、『朝日新聞』2016年09月04日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
悩んで読むか、読んで悩むか
「人は人」、親子関係も風通し良く 斎藤環さん
[文]斎藤環 [掲載]2016年09月04日
さいとう たまき 61年生まれ。精神科医で批評家。筑波大学教授。『オープンダイアローグとは何か』(著・訳)など
■相談 家で機嫌が悪い中2の息子
中学2年の息子が機嫌が悪いことが多く、家で暴言を吐いたり物にやつあたりしたりします。妹たちや親のふるまいにイライラしている様子です。家族も疲弊してしまいます。どんな本を薦めれば、彼のイライラを少しでも減らせるでしょうか。息子は新聞を毎日読んでいるので、もし掲載されれば「自分のことかも」と思ってくれると期待しています。(横浜市、会社員女性・40歳)
■今週は斎藤環さんが回答します
お母様のお気持ちは良くわかりますが、わが子に新聞紙面を通じてメッセージを送るとは……専門家のはしくれとして言わせていただければ、親御さんのそういう操作的にみえる姿勢にも、息子さんのいら立ちの原因があるのかもしれません。とりあえずお母様には拙著『「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉』(ちくま文庫・842円)をお薦めしておきます。そこに思春期の心に配慮した接し方については詳しく書いておきましたので。
私は、思春期の子を持つ親御さんには「子離れのタイムスケジュール」設定をお勧めしています。何歳まで親として面倒を見るか。例えば「25歳まで」などと決めたら、息子さんにもそう伝えておきましょう。なに、「親ウザい」と感じはじめる年頃ですから、別に傷つきはしません。
そのうえで、お子さんと一緒に読んで欲しい本があります。『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』です。精神科医の森川すいめいさんが全国の自殺希少地域(自殺が少ない自治体)を探訪した記録です。面白いのは、自殺が少ない地域では「人のつながりが弱い」とか「助けを求めることが恥ではない」みたいな地域特性があるんですね。
そういう特性はもちろん一様ではありませんが、私の読んだ印象では、全般的に人のつながりが緩やかで、気軽に助けたり助けられたりする関係があって、よく対話するけれども「人は人、自分は自分」という距離感もある。個人を大切にするので人間関係の風通しが良いんです。
親子関係にも必要なことではないでしょうか。相手にあるべきイメージを押しつけたり、親切の見返りを求めたりする関係は、とても息苦しい。「いつかは終わる関係」とお互いに思えたら、親子関係の風通しもずいぶん良くなるように思います。
もしこの本が面白かったら、元ネタとなった岡檀(まゆみ)さんの著書『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由(わけ)がある』(講談社・1512円)もあわせて読んでみることをお勧めします。
◇
次回(9月11日)は作家の山本一力さんが答えます。
◇
住所、氏名、年齢、職業、電話番号、希望の回答者を明記し、郵送は〒104・8011 朝日新聞読書面「悩んで読むか、読んで悩むか」係、Eメールはdokusho−soudan@asahi.comへ。採用者には図書カード2000円分を進呈します。
−−「悩んで読むか、読んで悩むか 「人は人」、親子関係も風通し良く 斎藤環さん [文]斎藤環」、『朝日新聞』2016年09月04日(日)付。
-
-
-
- -
-
-
http://book.asahi.com/reviews/column/2016090400013.html