覚え書:「18歳をあるく:自分が動けば、変わるんだ 目安箱、学校を動かした」、『朝日新聞』2016年06月12日(日)付。

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18歳をあるく:自分が動けば、変わるんだ 目安箱、学校を動かした
2016年6月12日

「『こうしたらいいじゃん!』ってみんなで気軽に話し合って、動くことが政治につながる」。生徒会室で、仲間と談笑する風間一樹さん(中央)=金川雄策撮影

 テレビには、国会前で「選挙に行こうよ」とコールする若者たちの姿が映し出されていた。キラキラ活動しているのって同世代の1%だよなあ――。

 《ぶっちゃけ、同じ年代で選挙のことなんてほとんど話したことがない》

 神奈川県逗子市の高校3年生風間一樹さん(18)は、自身の思いを書き込んだ。「偏差値40台の高校に通う高校生のブログ」と題し、1カ月で10万ビューを集める。地方と首都圏の教育の違いを知ろうと愛知県碧南市の女子高校生と話したり、東大生と話したり。独自の動画も載せる。

 夏の参院選までに18、19歳になる人を対象にした朝日新聞の全国世論調査で、参院選に「関心がない」と答えた人は6割近い。

 風間さんが18歳選挙権の話題を振ってみても、「え? それよりスマホのさぁ」。話すことと言えばゲーム、恋愛の話ばかりだ。

 自由な校風にひかれて入った県立高校で昨秋、生徒会長に選ばれた。生徒会として声を聞こうと目安箱を設置すると、月50件ほど寄せられるようになった。「雨や事故の渋滞でバスが遅れた時は、欠席扱いにしないでほしい」。8割を占めた要望を受け、先生に掛け合うと、「状況に応じて配慮する」ということになった。

 内閣府の13〜29歳を対象にした調査(2013年度)で、「政策決定過程への参加で、社会現象が変えられるかもしれない」という問いに、「どちらかといえば」も含め半数が「そう思わない」と答えた。でも、選挙に興味がない友だちも学校の問題には声を上げ、学校を変えられた。「周りを見渡して問題提起したり解決したりすることが政治につながる。解決ができる希望が見えれば、政治に関心が持てる」。風間さんは思う。

 (貞国聖子)

 ■低い投票率は「伸びしろ」

 ふとしたきっかけで「政治」に踏みだし、周囲の後押しで思わぬ方向へ転がり出す。すると社会の変革はおぼろげながら、具体的な形となって見えてくる。

 大学生の森脇留美さん(21)と吉田京加さん(19)は昨夏、NPOの主催する議員インターンに応募した。特に政治に興味があったわけではない。「先生が、選挙には必ず行ってくださいと言っていたので、その前に勉強したいと思って」。鎌倉市議の永田磨梨奈さん(33)のところで2人は出会い、市議会に傍聴に出かけた。

 ところが……

 「何を話しているのかまったくわからなかった」。なぜだろう。立てた仮説が、「若者の政治離れで投票率が下がり、若者を重視する議員があまり当選しないから、若者に親しみのある話が出ない」。実際、前回2013年の鎌倉市議選では、20代の投票率は約26%しかなかった。2人は永田さんの紹介で地元のコミュニティーFMで問題意識を話し、10月には鎌倉市のまちづくりネットワーク、「カマコン」の定例会議で「若者の投票率を上げるにはどうしたら?」と意見を募った。

 2人のもとに多くの大人がやってきた。「考えていなかったようなアイデアがポンポン出て面白かったし、本当にできるかも、って思えた」(吉田さん)

 5月29日の会議。「投票率が低いということは、上がる余地がめちゃめちゃある。日本記録を作ろうとか盛り上げられないかな」「同窓会を投票日に合わせて、待ち合わせを投票所の前で、というのは?」。彼女たちを大人が囲んで議論を交わした。今めざすのは、来春の市議選だ。2人は「若者の投票率が上がって、県、全国へと広がって行けばいいな」(森脇さん)と前を見ている。

 (秋山訓子)

 ■身近な実験積み重ねて 宇野重規・東大教授(政治思想史)

 18、19歳の有権者は240万人で、有権者の2%程度しかない。彼らが選挙を通じて社会を変えたいと思っても、数だけでいえば難しい。しかも社会保障は高齢者に手厚く、負担は先送りされがちだ。18歳世代は難しい立場に置かれているのは間違いない。

 じゃあ何もできないかと言えばそんなことはない。たとえば重要だと思う社会課題があれば、自分たちで解決策を提案してみる。うまくいけば、それを見た政府がまねをして制度化、予算をつける。NPOで病児保育の解決を図る若者など具体例はたくさんある。

 今の若い人たちには社会的な関心が強い人が多い。不景気な世に育ち、ごく自然に社会の役に立ちたいと思っている。かつての70年安保などでは、大義を掲げ社会を変えようとした。今は違う。肩ひじ張らず、活動が日常に根差している。

 これまで政治は、代議制民主主義にかたより過ぎていたが、政治はもっと幅広い。自分たちで社会を変えようとする行動はすべて政治だ。学校も社会だし、ゴミ拾いも変革の一つだ。

 若者が身近なところで異議申し立てをして、ネットを使って社会変革の種をまく。それを大人が応援する。自分たちの力で社会を変える小さな実験の一つ一つが政治だ。

 まずは日常で少しジャンプしてみる。自分が必要とされていることを感じながら小さな成功体験を得る。それが重なった時、社会は変わる。未来への希望はここにあると思う。

 (聞き手・秋山訓子)

    *

 うの・しげき 1967年生まれ。専門は政治思想史、政治哲学。社会的企業地方自治と民主主義のあり方なども研究テーマ。著書に「民主主義のつくり方」「政治哲学的考察――リベラルとソーシャルの間」など。

 ■ワタシの政治、語る難しさ

 政治って何だと思いますか? 取材で多くの18歳に聞いた。「国とかわからないですけど……」と言いながら、「ワタシの政治」を答えてくれた。「で、記者さんは何だと思います?」と問われた。絶句。口をパクパクさせて何かしゃべった記憶があるが、私の「ワタシの政治」を私は語れなかった。情けないが今もうまく言えない。

 (高久潤・35歳)
    −−「18歳をあるく:自分が動けば、変わるんだ 目安箱、学校を動かした」、『朝日新聞』2016年06月12日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12405761.html





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