覚え書:「【東京エンタメ堂書店】ゴッホ&ゴーギャンを妄想する本 数奇な生涯、作家を刺激」、『東京新聞』2016年09月19日(月)付。

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【東京エンタメ堂書店】

ゴッホゴーギャンを妄想する本 数奇な生涯、作家を刺激

2016年9月19日


 近代絵画の巨匠ゴッホゴーギャン。2人の数奇な生涯は文学、映画、舞台など多岐にわたり、作家の創作意欲を刺激し、多くの人々の心をとらえてはなさない。(事業局長・松川貴)
 別に仕事を持ちながら、画家を夢見ていたゴッホゴーギャンは1888年10月末からその年の暮れまで南フランス・アルルの「黄色い家」で共同生活を送った。2カ月という短期間だが、2人の画家人生において決定的な転機となった。
 ゴッホゴーギャンとの口論の末、自分の左耳を切り取り、共同生活は破局を迎える。その後、精神療養施設の入退院を繰り返した末、ピストル自殺で、37年の生涯を閉じた。一方、ゴーギャンは南太平洋タヒチへの移住を考えるようになり、資金を蓄えた後、妻子を捨てて、91年に渡航。別の島で病死した。享年54だった。

 2人の絵画の芸術性とは別に、そんなゴッホゴーギャンの生涯が面白くないはずがない。そう思い高校生の時に手に取ったのがサマセット・モームの代表作<1>『月と六ペンス』(新潮文庫、680円)。証券取引所の仲買人から画家を夢見て妻子を捨て、さらに友人で画家のディルク・ストルーヴェから妻を奪い、その妻を自殺に追い込むチャールズ・ストリックランド。最後は南洋タヒチで病死する主人公の冷徹で悪魔的なキャラクターは途中で本を閉じさせてくれない。
 モームゴーギャンの生涯からヒントを得て、創作した架空の人物とは理解しながら、どうしてもストリックランドをゴーギャン狂言回し的な立場のストルーヴェをゴッホに重ね合わせて読んでしまう。ただし、ストルーヴェとゴッホの共通点はオランダ出身であること、ストリックランドを画家として尊敬し、一緒に住むことを提案することぐらいしかないが…。

 ゴッホの文学的な素養に注目したのが「批評の神様」小林秀雄だ。ゴッホの書簡集を「優れた告白文学」と評価する小林の著作<2>『ゴッホの手紙』(角川文庫=絶版、新潮社『小林秀雄全作品<20>』に収録)は、実に本文の7、8割が手紙からの引用という異色の評論だ。この中の1章で、小林はゴッホの手紙だけでなく、ゴーギャンの手記を引用しながら2人の出会いから耳切り事件、そして決別に至るまでの関係に言及している。
 小林はゴーギャンを「尋常な画家の生活が不可能なように生まれついた人間」として捉え、ゴッホと同じにおいをかぎ取っていたようだ。ゴッホを引きつけたアルルの太陽はゴーギャンにとってタヒチの海であり、ゴッホは隔絶された精神病院で画家生活を送ったが、ゴーギャンにとって南洋の島々が隔離室であった。2人とも自殺の衝動に襲われたが、違いはゴッホは死に、ゴーギャンは未遂に終わったことだ、と。

 <3>穂積作の漫画『さよならソルシエ』(小学館、全2巻、各463円)はゴッホを物心両面で支えた弟の画商テオドルス(テオ)が主人公。ソルシエとは魔法使いの意味で、作者は2人の兄弟愛に着目し、「炎の画家」ゴッホはテオが魔法のように生み出した虚像として創作。この作品は今年、ミュージカル化された。
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 ゴッホゴーギャンの2人に着目した日本初の「ゴッホゴーギャン展」は10月8日から東京都美術館で開催される。
    −−「【東京エンタメ堂書店】ゴッホゴーギャンを妄想する本 数奇な生涯、作家を刺激」、『東京新聞』2016年09月19日(月)付。

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