日記:私はあなたを管理する。

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権力とそこからの解放
 これまでの話に共通しているのは、ケアする側は権力を持っていて、患者や入居者を管理する発想に陥りがちだということです。何度も繰り返します。ユマニチュードは個人の自由と自律を尊重し、だからこそ絆を重視します。
 私はあなたを管理する。この考え方を持つ限り、相手とのあいだに生じるのは力関係です。ユマニチュードは人と人の関係を紡ぎます。そのためには、あなたがいま持っている権力を脇に置かなければなりません。そうでないと目の前の人に近づくことはできないからです。あなたは自分が権力者だと気づいていないかもしれません。だからこそ変化の鍵はそこにあるのです。
 依存するのはひとつの価値だと述べました。多くの介護施設では、高齢者を楽しませる目的で音楽会などのイベントを行っています。本当にそれは楽しいのでしょうか。
 日本のある施設では、高齢者が地域の住人を楽しませるための企画を開催しています。地域の誰かを楽しませることが、高齢者の喜びになっているのです。そこでは自主性が発揮されています。刃物を研ぐサービスをしたり、植木を剪定したり、施設で結婚式を行ったりします。花嫁のためにカーテンを利用したウェディングドレスをつくったそうです。みんな認知症ですが、地域住民は「そうだと言われるまで、わからなかった」といいます。
 誰かの喜びのためにできることをする。そうした互いに依存してる関係の中では、認知症であるかどうかはあまり問題にはならないのです。私にはあなたが、あなたには私が必要。こうした相互依存の関係は、権力をもとにはつくられはしないのです。
 幸福感や充足感をつくりあげてくれる絆の中で、私たちは解放されます。自主性が発揮され、自分以外のために何かを行うとすれば、死ぬまで生き生きと生きることができるのです。
 翻って言えば、人を殺すのは、権力を持つことによって起きるといえるでしょう。力によって「自分は相手よりも強いのだ」と示そうとする。そうして生まれる力関係は、ケアの場においても現れます。自分を擁護できない力のない人の前に立つと、あなたは絶大な権力を持つことになります。そういうときに虐待は起きやすいのです。
 依存する以外に生きる方法がない人は、相手に権力を委ね切ってしまいます。昔は王様にひれ伏せば施しはもらえました。それと同じく病人は医師の指示に従っていました。それが当然と思われいたのです。
    −−イヴ・ジネスト、ロゼット・マレスコッティ(本田美和子訳)『「ユマニチュード」という革命 なぜ、このケアで認知症高齢者と心が通うのか』誠文堂新光社、2016年、127−128頁。

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