覚え書:「【東京エンタメ堂書店】 もうひとつの「君の名は。」 文字で味わう新海誠作品」、『東京新聞』2016年10月17日(月)付。

Resize3567

        • -

【東京エンタメ堂書店】

もうひとつの「君の名は。」 文字で味わう新海誠作品
2016年10月17日


 話題の映画「君の名は。」。皆さんはもうご覧になりましたか? 監督の新海誠(しんかいまこと)さんは、自分の作品を自分で小説にすることでも知られています。今回は「作家・新海誠」の3作を取り上げました。 (運動部総括デスク・谷野哲郎)

◆残された謎 小説で納得
 興行収入や観客動員で記録的ヒットを続けるアニメ映画「君の名は。」。実は小説版も大ヒットしているのをご存じでしょうか。<1>『小説 君の名は。』(角川文庫、六〇五円)は、十月までに発行部数百万部を突破。ベストセラーとなっています。
 山深い田舎町に住む女子高校生の三葉(みつは)と東京に暮らす男子高校生の瀧(たき)。あるとき、二人は夢の中で入れ替わっていることに気付きます。そこに千二百年周期で地球に近づく彗星(すいせい)が現れて…。すれ違いの切ないラブストーリーが文章で存分に味わえます。
 新海さんの小説の特徴は、映画では描かれなかったり、描き切れなかったシーンの補足がされていること。例えば、組紐(くみひも)に隠された秘密、三葉が髪を切った理由、二人が入れ替わった訳などが小説では記されており、「あ、あれはそういうことだったのか」と驚かされます。筆者は本を読み終わったあと、「山崎繭五郎(まゆごろう)さん!! あなたが二百年前に火事を出さなければ−」と苦笑しました。

◆他の話とのつながりも
 <2>『小説 言(こと)の葉(は)の庭』(角川文庫、七三四円)は、二〇一三年に公開された同名映画の小説版。靴職人を目指す高校生の孝雄(たかお)は、ある雨の日の公園で年上の女性・雪野(ゆきの)と出会います。傷つき、悩みながら前に進もうとする雪野。そして、真っすぐ彼女に向き合おうとする孝雄の思いが胸を熱くさせます。
 この小説はラストシーンが映画と違うところが魅力。余談ですが、『君の名は。』で三葉に古典を教える教師が「ユキちゃん先生」と記されているのは偶然でしょうか(笑)。このあたりに作者のいたずら心を感じます。

◆「切なさ」の起点の1作
 新海さんは一九七三年、長野県生まれの四十三歳。二〇〇二年に「ほしのこえ」でデビューして以来、いくつもアニメーション映画を製作してきました。そんな新海さんが初めて自身の作品を小説にしたのが、<3>『小説 秒速5センチメートル』(角川文庫、五六二円)。〇七年の同名映画のノベライズです。
 以前も紹介させてもらいましたが、この作品で新海さんは「切なさの魔術師」として、大勢のファンの支持を得ました。中学入学で遠距離恋愛になった明里(あかり)と貴樹(たかき)のその後の物語は「桜花抄(おうかしょう)」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」からなる三つの連作短編。小田急線の踏切で出会う(と思われる)二人のシーンは、「君の名は。」のラストに影響を与えたのではないのでしょうか。一度、新海さんにうかがってみたいです。
 なぜ、小説を書くのか。この本のあとがきで新海さんは「映像で表現できることと、文章で表現できることは違う」と書いています。モノローグ(独白)が多い作風ということもあり、映像と文章、それぞれが補い合って一つの作品と考えているのでしょう。
 「それにしても、こいつの涙は小さなビー玉みたいに透きとおってころころしている」とは『小説 君の名は。』で瀧が三葉の涙を見たときの描写です。どうですか。映像とはまた違った趣きを感じませんか。読んで味わう新海作品。もう一つの「君の名は。」が、ここにあります。
    −−「【東京エンタメ堂書店】 もうひとつの「君の名は。」 文字で味わう新海誠作品」、『東京新聞』2016年10月17日(月)付。

        • -





http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/entamedo/list/CK2016101702000171.html








Resize2961

小説 君の名は。 (角川文庫)
新海 誠
KADOKAWA/メディアファクトリー (2016-06-18)
売り上げランキング: 4


小説 言の葉の庭 (角川文庫)
新海 誠
KADOKAWA/メディアファクトリー (2016-02-25)
売り上げランキング: 492