覚え書:「文化の扉 有田焼400年 初の国産磁器、挑み続ける伝統」、『朝日新聞』2016年07月10日(日)付。

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文化の扉 有田焼400年 初の国産磁器、挑み続ける伝統
2016年7月10日

有田焼400年<グラフィック・永井芳>
 
 日本で最初の国産磁器は肥前有田(佐賀県有田町)で産声を上げた。それが有田焼。伝統に彩られ、気品に満ちた磁器のクールな輝きは、いまなお人々を魅了する。今年はその誕生から400年。

 陶器と磁器の違い、ご存じだろうか。陶器の素材は土で、温かみがあってどっしりと味わい深い。一方、磁器の原料は細かく砕いた石。薄くて白くて気品があって、たたけばキーンと金属的な音がする。有田焼はこの磁器の代表だ。伊万里焼とも呼ばれるのは、近くの伊万里港から積み出されたことに由来する。

 日本産の磁器が誕生したのは、今をさかのぼること400年前とされる。豊臣秀吉朝鮮出兵を機に、西国大名たちが朝鮮半島の陶工を連れ帰ったことに端を発する。そのひとり李参平が1616年、有田の泉山で磁器の原料となる陶石を発見したと伝わり、これが日本での磁器生産の始まりとされている。

 「有田焼は社会に順応し、その需要に応じて技術レベルを高めてきた。今日にまでみられる多様さは、その表れです」。佐賀県立九州陶磁文化館の鈴田由紀夫館長は、そういう。

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 一口に有田焼といっても実に様々。白地に青線でシンプルな文様を描く初期伊万里の染付(そめつけ)は、おおらかさと素朴さが魅力だ。やがてカラフルな色絵が登場。当初は濃厚な色使いだったが、次第に洗練されていく。その極みが、すがすがしい柿右衛門様式だろう。

 余白を大きくとり、さわやかな印象の「柿右衛門」は17世紀後半、オランダ東インド会社の手で海外に輸出された。王朝交代期の混乱で中国製品の輸出が途絶えていたこともあり、柿右衛門は欧州で大ヒット。王侯貴族のあこがれを誘った。

 「昔のものは筆が躍り、デザインに遊び心を感じる。ラフだけれど自由で、味わいがある」と15代酒井田柿右衛門さん。17世紀も終わりに近づくと、人気は金や赤を多用して豪華さを強調する金襴手(きんらんで)へと移っていく。

 一方、佐賀藩は将軍家への献上品として、技術を磨きに磨いた。それが色鍋島。大胆かつ精緻(せいち)な独特の意匠を施し、古今の色絵磁器の最高峰とされた。

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 やがて厳しい時代が訪れる。明治維新を迎えて自由な生産や営業が可能になる一方で、一部の陶工たちは藩の保護を失い、新時代への対応を余儀なくされた。一時は伝統の技の継承も危ぶまれたが、有田焼の灯をつなぐことができたのは「常に時代と向き合い、挑み続けてきたからでしょう」と、色鍋島を今に受け継ぐ14代今泉今右衛門さんは語る。自身も斬新な手法や構図を創造し、21世紀の色鍋島を生み出している。

 生活様式の変化で有田の陶磁器産業は再び苦境に立つ。それを打開しようと、現代社会にマッチしたデザインや器種が次々と誕生。モダンな感覚でアレンジされた意匠も少なくない。先人の蓄積を武器に時代に挑む、そんな伝統と革新の両立こそ有田焼の歴史がはぐくんだ懐の深さと足腰の強さなのだろう。(編集委員中村俊介

 ■民衆の息吹、季節感が魅力 古美術鑑定家・中島誠之助さん

 古伊万里に目覚めたのは仕事を始めた1960年代後半ごろでしょうか。古美術としての古伊万里といえばそれまでゴージャスな金襴手(きんらんで)でしたが、私は雑器扱いだった染付(そめつけ)に着目した。染付にはごまかしの利かない緊張感、手慣れの美しさがある。

 日本の風土や季節感が顕著に表れたもの、それが古伊万里と言ってよい。ひたむきなんです。そして常に時代の要求に応え、日本的なものを生み出してきた。

 江戸時代は庶民文化が勃興した時代。多くは藩窯とかお殿様の御庭焼などでしたが、鍋島はともかく、有田は官より民でした。そんな江戸時代の民衆の息吹が有田の魅力なのでしょう。

 古伊万里は全国で冠婚葬祭に使われました。庄屋さんや豪農が買い、農民が借りて大切に使う。共同財産だから、まずは民衆が喜ぶものでなくてはならなかったのですね。

 <訪ねる> 佐賀県立九州陶磁文化館(佐賀県有田町)では今夏から来年にかけて、有田焼創業400年を記念する展覧会が相次ぐ。

 「人間国宝と三右衛門」(8月11日〜9月25日)は、佐賀県で活躍する重要無形文化財保持者ら代表的な陶芸家の作品が集う。「日本磁器誕生」(10月7日〜11月27日)は、有田磁器の発祥と発展から日本磁器全体の歩みを眺める試み。

 「日本磁器の源流」(12月9日〜1月15日)は、日本磁器の母体となり、有田が追いつき追い越そうとめざした中国磁器の魅力に迫る。

 ◆「文化の扉」は毎週日曜日に掲載します。次回は「ローマ法王」の予定です。ご意見、ご要望はbunka@asahi.comメールするへ。
    −−「文化の扉 有田焼400年 初の国産磁器、挑み続ける伝統」、『朝日新聞』2016年07月10日(日)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12451996.html





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