覚え書:「文庫この新刊! 東直子が薦める文庫この新刊! [文]東直子(歌人、作家)」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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文庫この新刊!
東直子が薦める文庫この新刊!
[文]東直子歌人、作家)  [掲載]2016年10月16日
 
(1)『さすらう者たち』 イーユン・リー著 篠森ゆりこ訳 河出文庫 1296円
(2)『本当はひどかった昔の日本 古典文学で知るしたたかな日本人』 大塚ひかり著 新潮文庫 562円
(3)『貧困のハローワーク』 増田明利著 彩図社 680円
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(1)は、文化大革命後の中国地方都市を舞台とした群像劇。政治犯として一人の若い女性が受けた酷(むご)い処刑と市民運動など、実際の事件がモデルとなっている。子どもや老人ら、虐げられた人々の日常が端的に描かれ、追いつめられていくその心の変化が繊細に伝わる。やっと見いだした光が失われていく時のとてつもない悲しみ。彼らが受ける不条理には、普遍性がある。
(2)では、日本の過去の不条理をつきつけられる。遠い昔の寓話(ぐうわ)の世界の、教科書には決して載らない、身も蓋(ふた)もないような話が、著者の明快な論理とともに紐解(ひもと)かれていく。なんと残酷な、とあきれつつ、DV、児童虐待、自殺と、現代に通じる要素が多数あることに、深く感じ入ってしまう。
(3)には、現代の新たな残酷物語が詰まっている。様々な業種の実態が具体的なデータとともに審(つまび)らかになる。「我々の利便性や快適さが、そこで働いている人たちの過重労働や自己犠牲の上にあるのだとしたら」という著者の問いかけが重い。
    −−「文庫この新刊! 東直子が薦める文庫この新刊! [文]東直子歌人、作家)」、『朝日新聞』2016年10月16日(日)付。

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http://book.asahi.com/reviews/column/2016101600009.html



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さすらう者たち (河出文庫)
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