覚え書:「文庫この新刊! 辻山良雄が薦める文庫この新刊! [文]辻山良雄(書店「Title」店主)」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。
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文庫この新刊!
辻山良雄が薦める文庫この新刊!
[文]辻山良雄(書店「Title」店主) [掲載]2016年10月23日
(1)『逢沢りく』(上・下) ほしよりこ著 文春文庫 各648円
(2)『わたしの小さな古本屋』 田中美穂著 ちくま文庫 842円
(3)『個人全集月報集 武田百合子全作品 森茉莉全集』 講談社文芸文庫編 講談社文芸文庫 1728円
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他人の目を気にして見えを張り合う世界にいると、本当の自分の感情がどこにいったのかわからなくなる。(1)は他人から特別な存在と思われていた14歳の少女が、ある日関西の親戚に預けられ、そこでの生活の中でいつの間にか変化していく物語。異質なものと出会うことで発見された自分の感情。クライマックスへの盛り上がりが読みどころ。
(2)は倉敷で古本屋「蟲(むし)文庫」を営む店主の日常。小さな店の帳場から見える景色には、様々な人、本が行き交う。毎日店を開けて、そこに座ることの繰り返しの中でないと見えてこない、ずしりと存在感のある時間がつづられる。
(3)は2人の女性作家の全集、しかもその月報だけを集めた本。好きな作家のことは、その人について書かれている文章を読むだけでもうれしいもの。月報を書いている作家、例えば埴谷雄高や室生犀星のような作家でも、自分の作品では見せないようなリラックスした親しみを見せている。これはなかなか思いつかない企画。
−−「文庫この新刊! 辻山良雄が薦める文庫この新刊! [文]辻山良雄(書店「Title」店主)」、『朝日新聞』2016年10月23日(日)付。
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http://book.asahi.com/reviews/column/2016102300004.html