覚え書:「けいざい+ 新話 お寺とビジネス:上 生き残るため、住職が変革」、『朝日新聞』2016年08月10日(水)付。

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けいざい+ 新話 お寺とビジネス:上 生き残るため、住職が変革
2016年8月10日

一目で分かる「お布施一覧」と、橋本住職=埼玉県熊谷市見性院
 埼玉県熊谷市の見性(けんしょう)院は400年以上の歴史がある曹洞宗のお寺だ。住職はいまの橋本英樹(えいじゅ)(50)で23代目。その橋本が運営を一変させた。

 訪れた人はまず、参道入り口に掲げられた「心得十カ条」を目にする。僧侶として守るべき最低限の戒律を橋本が考えたものだ。

 質素倹約を旨とする▽原則、禁煙禁酒▽高級車に乗らない▽ギャンブルはしないといった項目が並ぶ。

 お布施の「料金表」も掲げてある。葬儀を担う導師がひとりで戒名が「信士・信女」の場合で20万円。以前は50万円もらっていたのを大幅に下げた。

 橋本が「変革」に踏み切ったのは4年前だ。檀家(だんか)制度をやめて、寺と、檀家改め「信徒」との関係を、互いに縛らないものにした。背景にあったのは檀家数の減少だ。地縁に縛られ、新規の「顧客」が開拓できなければ、寺の経営は立ちゆかない。明朗会計とサービス重視を掲げ、ネットを通じて新規開拓する方向へとかじをきった。

 そこで400軒弱あった檀家との関係をいったん白紙にし、「随縁(ずいえん)会」という会員組織にした。葬儀や法事への対応は今まで通り。会費は無料。別の寺の檀家になってもいい。寺は新たな信徒獲得に乗り出す。

 お布施の明朗化に加え、遺骨を郵送で受け付ける「送骨サービス」を始めた。荷造りに必要な段ボールなどを希望者に送り、骨つぼに入れた遺骨を送り返してもらう。敷地内に合祀(ごうし)し、永代供養する。料金は送料込みで3万円強。宗派や国籍は一切問わない。維持費もいらない。

 「お金がなくて墓が建てられない」といった相談が以前からあり、受け入れられる自信があった。多いときで、ひと月に全国から50人分の遺骨が届く。大半が寺のホームページを見て申し込んでくるという。

 橋本は駒沢大大学院を修了後、曹洞宗大本山永平寺福井県永平寺町)で3年間修行した。30歳で米国に渡り、スタンフォード大学の仏教学研究所に2年間籍を置いた。留学時代、日系寺院に泊まり込んで手伝いをしていた時期がある。

 そこでは寺が葬儀や法事をするだけでなく、茶道や華道、書道や太鼓といった日本文化を伝承する役目を担っていた。寺が活動に熱心なのは、日系3世、4世を仏教につなぎとめるためでもあった。「みんなのお寺」を掲げる見性院のヒントがあった。

 檀家制度をやめても多くが会員として残り、信徒は増えた。昨年度の収入は前年度の1・5倍の約1億5千万円だったという。

 だが橋本の「ビジネス路線」に対する仏教界の反発は強い。曹洞宗の宗務庁は4月、送骨サービスについて「純粋なる信仰心と宗教行為に対する重大な冒涜(ぼうとく)及び誤解の起点となる」と厳しく批判した。

 見性院が属する曹洞宗埼玉県第一宗務所の所長、安野正樹(建福寺住職)によると、「檀家の遺骨が勝手に郵送された」といった苦情が別の寺から寄せられているという。安野は言う。 「宗教者が遺骨の郵送を率先して奨励するのはいかがなものか。本当に困っている人を助けたいなら、自ら取りに行くべきだ」

 こうした声を橋本は意に介さない。だが本来、「俗」から切り離された「聖性」にこそ宗教の本質があるのではないか。疑問を橋本にぶつけると、こう言った。「これからは宗教とお金の関係をクリアにし、説得力を持って語れる寺だけが生き残れる。それが私の答えです」=敬称略

 (佐藤秀男)

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 檀家が減り、経営基盤が揺らぐ「寺院消滅」の時代にお寺はどこへ向かうのか。3回でお伝えします。
    −−「けいざい+ 新話 お寺とビジネス:上 生き残るため、住職が変革」、『朝日新聞』2016年08月10日(水)付。

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http://www.asahi.com/articles/DA3S12504727.html

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