覚え書:「けいざい+ 新話 お寺とビジネス:中 「お坊さん便中止を」支持、わずか」、『朝日新聞』2016年08月11日(木)付。

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けいざい+ 新話 お寺とビジネス:中 「お坊さん便中止を」支持、わずか
2016年8月11日


お坊さん便から手配され、四十九日の法要をする僧侶。汗もぬぐわず、一心にお経を読んでいた=大阪府
 昨年12月、ネット通販大手アマゾンに法事や法要に僧侶を手配するサービス「お坊さん便」が出品され、ネット上やテレビで話題になった。

 「宗教の商品化」に、仏教の主な宗派でつくる全日本仏教会(全仏〈ぜんぶつ〉)は黙っていなかった。昨年暮れ、当時の斎藤明聖(あきさと)理事長名で「宗教に対する姿勢に疑問と失望を禁じ得ない」との談話を発表。今年3月にはお坊さん便の販売中止をアマゾンに申し入れた。

 お坊さん便は葬儀関連会社の「みんれび」(東京)が3年前に始めた。定額で僧侶を法事や法要に仲介する。基本価格は税込み3万5千円。みんれびへの手数料を除いた分が僧侶に「お布施」として入る。アマゾンに払う手数料はみんれびが負担する。

 「ここまで反響があるとは思わなかった」。みんれび副社長の秋田将志(30)は言う。みんれびは、岐阜県の高校で同級生だった社長の芦沢雅治(30)と秋田が7年前、仲間と3人で始めたベンチャー企業だ。

 当初、葬儀社を仲介・紹介するサイトの運営に力を入れた。成長が見込める市場の割に競合が少なかったからだ。飛び込みで近隣の葬儀社に営業し、紹介できる業者を増やした。やがて葬儀社だけでなく僧侶の仲介ニーズがあると気づく。

 一方、全仏にとって想定外だったのは、お坊さん便に対する批判が、「なぜお布施と称して多額の金銭を要求するのか」などと、自らへの批判となって返ってきたことだ。寄せられた意見で、全仏を支持する声はわずかだった。

 思わぬ「劣勢」に全仏は今年1月、学識経験者と各宗派の代表ら十数人でつくる「協議会」の設置を決めた。仏教界にも問題があるとして、菩提(ぼだい)寺を持たない人に近隣の寺を紹介する取り組みや、過疎地の僧侶への対応策などを話し合う予定だった。

 だがメンバーの人選などに手間取り、初会合は9月にずれ込む見通し。6月に就任した全仏の新理事長、石上智康(いわがみちこう)(79)は「決定打はなかなかない。このような商品が成立しない土壌をつくるために我々も襟を正し、愚直に信頼を回復していくしかない」と話す。

 7月半ば、大阪府内に住む70代の女性は、80代の夫の四十九日法要にお坊さん便を頼んだ。息子がアマゾンで注文してくれた。夫は入院生活が長く、最近は近所との交流もなかった。お金もかかるので家族葬で済ませたが、供養はきちんとしたい。

 この日は、女性宅に比較的近い京都の40代の僧侶がやってきた。もちろん会うのは初めて。僧侶は50分近くお経を読み上げると、授けた戒名の由来を説明し、1時間半ほどで引きあげた。女性は「安くすんでよかった。坊さんの業界が(お坊さん便に)怒ってるらしいけど、そんなん自由でええと思う」。

 この僧侶はふだん別の仕事を持つ。檀家(だんか)は30軒ほどで、寺の収入だけでは食べていけない。約1年前からみんれびのお坊さん便に登録し、20件以上の葬儀や法事を担った。アマゾンの場合は決済が終わっているのもありがたいと言う。「本来のお布施とは違うかもしれないが、お坊さん便は宗教的サービスを提供していると考えています」

 みんれびによると、アマゾンの出品前に全国で約400人いた登録僧侶が、いま100人近く増えた。=敬称略(佐藤秀男)

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 ■「お寺とビジネス(下)」は13日朝刊に掲載します。ご意見は、keizai@asahi.comメールするまで。
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